
- 寸法
- 104.2 × 81.2 cm
- 技法・素材
- キャンバスに油彩
- 所蔵
- 個人蔵
Mrs. Hugh Smith
1904年
✦ 見どころ(技法・色彩)
限られた色彩の中で、素材の質感の違いが驚異的なリアリズムで描き出されています。レースで縁取られた白いドレス、ふっくらとした毛皮のコート、シフォン素材のキャップの柔らかな描写が見どころです。また、手首のブレスレットや胸元のペンダントは、即興的で厚みのある筆触(インパスト)で描かれ、絵具自体の物理的なきらめきが宝石の光沢を表現しています。
✦ この絵の舞台
サージェントのロンドンのアトリエが舞台です。背景にはリッチな深紅のドレープ(幕)が設えられており、これがコンスタンスの銀髪と白い衣装を劇的に際立たせる視覚的舞台装置として機能しています。彼女が腰掛けているのは、サージェントが肖像画制作で頻繁に用いたお気に入りの調度品である、フランス風のベルジェール・チェア(ひじ掛け椅子)です。
✦ 時代背景
1904年当時のイギリスは、金融・貴族階級が社会のトップに君臨していました。コンスタンスの夫コリン・ヒュー・スミスはイングランド銀行総裁を務めた高名な金融家であり、息子も後に男爵位を授かるなど、スミス一族は絶頂期にありました。彼らは社会的ステータスの完成を象徴する記念碑として、当時もっとも人気のあったサージェントに肖像画を依頼しました。
深紅の幕を背にして、フランス風のひじ掛け椅子にゆったりと腰掛ける銀髪の婦人。
ふっくらとした毛皮のコートを羽織り、胸元にはハート型のペンダントがきらめいています。
彼女の名前はコンスタンス・アディーン。1865年にコリン・ヒュー・スミスと結婚した女性です。
夫のコリンは、イングランド銀行総裁を務めた極めて高名な金融家でした。
1904年、英国の金融・貴族階級のトップに君臨していたスミス一族は、社会的ステータスの完成を象徴する記念碑として、一枚の肖像画を依頼します。
白羽の矢が立ったのは、ジョン・シンガー・サージェント。
当時もっとも人気があり、肖像画家としての名声の絶頂に達していた人物です。
富と権力を手にした一族と、頂点を極めた画家による、華やかな成功の証。
一見すると、誰もが羨むような幸福な一枚に見えるかもしれません。
でも実は、サージェント自身は、この絵を描きたくなかったのです。
1904年当時、サージェントは過密なスケジュールに深く疲弊していました。
彼はすでに、商業的な肖像画制作から身を引きたいと熱望していました。
アトリエにこもって富裕層の顔を描き続ける日々から逃れ、水彩画や壁画といった、自発的な創作へ移行したかったのです。
しかし、スミス一族からの依頼を、彼は突き返すことができませんでした。
コンスタンスは、サージェントが以前に描いたイギリス社交界の肖像画の金字塔『ウィンダム姉妹』のモデル、マデリン・ウィンダムの姻戚にあたる人物でした。
この社交界の密接な血縁や姻戚関係が、新たな依頼を生み出す強力なトリガーとなっていました。
一族の強固なネットワーク。
そして、提示される高い報酬。
しがらみと人間関係の網の目が、サージェントをキャンバスの前に縛り付けました。
彼は、断りきれない思いを抱えたまま、ロンドンのアトリエにコンスタンスを迎え入れたのです。

出典・参考資料
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