An Artist at His Easel
寸法
40.0 × 53.4 cm
技法・素材
アイボリー・ウーブ紙(織目紙)に鉛筆の痕跡の上に水彩
所蔵
シカゴ美術館

An Artist at His Easel

1914年

水彩

アメリカ人の両親のもとイタリアで生を受け、パリで若年期を過ごしたのちロンドンを拠点に活躍した画家。

✦ 見どころ(技法・色彩)

下描きの鉛筆の線を残しつつ、その上に驚くほど速いスピードで透明な水彩が重ねられています。グレーや深緑などの落ち着いた色合いの中で、流れる急流の水しぶきは、絵の具を塗らずに紙の白地をそのまま残すことで表現されています。さらに無色の蜜蝋クレヨンで水を弾かせる技法も即興的に使われています。

✦ この絵の舞台

アルプスのブレンナー峠に近い、オーストリアとイタリアの国境にまたがるチロル地方の山岳地帯が舞台です。鬱蒼とした森林を流れる急峻な渓流のほとりで、ポータブル用の簡易イーゼルを立てて戸外制作が行われています。サージェントがロンドンのスタジオから逃れ、純粋な視覚の喜びのために訪れた場所です。

✦ 時代背景

1914年の夏に制作されました。この直後、第一次世界大戦が勃発し、ヨーロッパは未曾有の戦禍に包まれることになります。本作は、世界が大きく変わってしまう直前の、大戦前夜のつかの間の平和な楽園の中で描かれた貴重な記録です。

✦ 鑑賞のための問い

画家の視線の先には、どのような景色が広がっていると思いますか?

白い帽子をかぶった人物が、折りたたみ椅子に座っています。
目の前のイーゼルに向かい、静かに筆を動かしているようです。
周囲には青や緑の自然が広がり、左側には水流のような白い部分が見えます。

作者のジョン・シンガー・サージェントは、豪華な肖像画で知られる画家です。
上流階級の人々を華やかに描き出し、国際的な名声をほしいままにしました。
彼といえば、きらびやかなドレスや重厚な室内を描いた作品を思い浮かべる人が多いでしょう。

でも実は、彼は肖像画を描くことから逃げ出していました。

1910年代。
サージェントは、公式な肖像画の制作に対して完全な拒絶反応を示していました。
注文主の奴隷のようになっている状況に、もはや耐えられなかったのです。
彼は次々と舞い込む高額な依頼を、きっぱりと断るようになります。

そして、ロンドンのスタジオを離れました。
向かったのは、アルプスの冷涼な山岳地帯です。
誰かのステータスを飾るためではありません。
自らの純粋な喜びのためだけに、水彩画を描く旅に出たのです。

1914年の夏。
彼はオーストリアとイタリアの国境にまたがる、チロル地方にいました。
イギリスの風景画家エイドリアン・ストークス。
その妻であるマリアンヌ。
そして、サージェントの実の妹であるエミリー。
親しいサークルの仲間たちと一緒の、穏やかな遠征でした。

この絵でイーゼルに向かっている人物は、はっきりとは特定されていません。
しかし、同行していたエイドリアン・ストークスではないかと考えられています。
気の置けない仲間が制作に没頭する姿を、サージェントは素早い筆致で捉えました。

この絵が描かれた直後、ヨーロッパは第一次世界大戦の戦禍に包まれます。
未曾有の争いが始まる直前。
これは、大戦前夜のつかの間の平和な楽園での記録でした。

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