
Le Blessé
1917年
第一次世界大戦
バラバラに砕かれた、円筒形の塊。赤と白、そして冷たい金属のような灰色が重なり合っています。これは、一人の「人間」が描かれた姿です。
フェルナン・レジェは、近代産業の「機械の美」を讃えた画家だと言われがちです。冷徹で、感情のないロボットのような人物を描いたのだと。しかし、この絵が生まれた背景を知れば、その印象は一変します。
実は、このバラバラに解体されたようなスタイルは、単なる美学的な実験ではありません。それは、彼が地獄のような戦場で目撃した「現実」そのものでした。
1914年、33歳のレジェは第一次世界大戦に召集されます。配属先は、激戦地として知られるヴェルダンなどの最前線でした。彼の任務は、最も危険な仕事の一つである「担架卒(ブランクディエ)」。降り注ぐ砲弾の中、泥にまみれ、引き裂かれた仲間を運び続ける毎日でした。
それまで、彼はパリの知的な芸術家仲間の中にいました。しかし塹壕(ざんごう)の中で彼を囲んでいたのは、坑夫や労働者といった、名もなき民衆でした。「彼らのスラングのように、強靭で、正確な絵を描きたい」。死と隣り合わせの極限状態で、彼はそう決意したのです。
1916年、彼はドイツ軍のガス攻撃を受け、死の淵をさまよいました。一命を取り留めたものの、負傷によって戦線を離れ、療養生活を余儀なくされます。その翌年、戦場での経験を糧に、わずか3枚だけ描かれた油彩画の一つが、この作品です。

出典・参考資料
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