
- 寸法
- 72 x 53 cm
- 技法・素材
- カラーリトグラフ
- 所蔵
- ミュシャ財団
Lefevre-Utile Sarah Bernhardt
1903年
✦ 見どころ(技法・色彩)
淡いゴールド、ピンク、ベージュ、そして豊かなグリーンが調和した、暖かく贅沢な色彩設計が見どころです。サラ・ベルナールは、丸い窓枠のような装飾から顔を出すように描かれています。彼女の髪を飾るユリの花をモチーフとした巨大なティアラは、ミュシャ自身が舞台のためにデザインしたものであり、細部まで緻密に描き込まれた装飾美が画面全体に気品を与えています。
✦ この絵の舞台
本作は、1895年にパリのルネサンス劇場で初演された戯曲『遥かなる姫君』のヒロイン、トリポリの女伯メリザンドに扮したサラ・ベルナールの姿を描いています。丸い窓枠のような装飾の中から顔を出す構図がとられており、特定の現実の風景ではなく、彼女の舞台上の神話的な美しさを際立たせるための、洗練された装飾空間が舞台となっています。
✦ 時代背景
19世紀末から20世紀初頭のパリでは、消費主義の台頭に伴い、製品のプロモーションに有名人を起用するマーケティング手法が急速に発展していました。老舗ビスケットメーカーのルフェーヴル=ユティル社もこの手法を積極的に活用し、ブランド価値を高めるために大女優サラ・ベルナールを広告に起用しました。ミュシャの芸術は、大衆向けのビスケットを洗練された嗜好品へと引き上げる役割を果たしました。
ユリの花をあしらった巨大なティアラ。
薄緑色の布を両手でそっと胸元に引き寄せる女性。
彼女は丸い窓枠のような金色の装飾の中から、こちらを静かに見つめています。
淡いゴールドやピンク、そして豊かなグリーン。
暖かく贅沢な色彩が画面を包んでいます。
左下には「LU」のロゴ。
右下には手書き風のフランス語のメッセージが添えられています。
これは1903年、フランス・ナントの老舗ビスケットメーカー「ルフェーヴル=ユティル」のために制作された広告ポスターです。
描かれているのは、世紀末パリの伝説的な演劇女王、サラ・ベルナール。
画面下部には、彼女の直筆サインとともに、こんな言葉が印字されています。
「プティ・リュ以上に美味しいものは見当たらない。ああ、プティ・リュが2つあるなら話は別だけれど」
19世紀末から20世紀初頭。
消費主義の台頭に伴い、有名人を起用したプロモーションは急速に発展していました。
ミュシャは、庶民的なお菓子であったビスケットを、洗練された芸術的嗜好品へと引き上げたのです。
一見すると、大女優の魅力で商品を売る、華やかな商業広告の成功例に見えるでしょう。
でも実は、この絵の原点は、ビスケットを宣伝するためのものではありませんでした。
ミュシャの生涯において、サラ・ベルナールは最も決定的な影響を与えた芸術的ミューズでした。
すべてのはじまりは、1894年のクリスマス翌日、12月26日のこと。
当時無名だったミュシャが、彼女の舞台『ジスモンダ』のポスター制作を急遽引き受けたのです。
年が明けた1895年1月1日。
パリの街頭を埋め尽くしたその革新的なポスターは、「聖なるサラ」の神話的イメージを永遠のものにします。
感動したサラは、ミュシャと6年間にわたる舞台・衣装デザインの独占契約を結びました。
そして、1896年12月9日。
パリのグランド・ホテルで、サラの友人や信奉者たちによって、彼女を称える大規模な晩餐会が開かれます。
ミュシャは、その特別な夜のために、あるポートレート・ポスターを制作しました。
それが、この絵の元となるデザインだったのです。

出典・参考資料
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