
- 寸法
- 44.5 × 32 cm
- 技法・素材
- カラーリトグラフ
- 所蔵
- ミュシャ財団
Lance parfum ‘Rodo’ gesetzlich geschvetz
1896年
✦ 見どころ(技法・色彩)
女性の流れるような髪の曲線は、単なる装飾ではありません。観る者の視線を女性の顔からハンカチーフ、そして香水ボトルへと巧みに誘導する「ビジュアル・ナビゲーション」としての役割を果たしています。この卓越したデザインは、商品の視覚的アイデンティティを一貫して高めました。
✦ この絵の舞台
特定の屋外や実在する場所ではなく、抽象化された優美な室内空間が舞台です。背後にはビザンティン風のモザイク模様と装飾的な花の輪が描かれています。前景には実際に店頭で販売される香水の箱が置かれ、商品の提示とミュシャ独自の幻想的な世界観が共存しています。
✦ 時代背景
1890年代のベル・エポック期。新興の中産階級の女性たちの間で、化粧品や香水への需要が爆発的に高まっていました。最新の科学技術による利便性を備えた新商品が次々と発売され、女性の優美なイメージを用いた先駆的なブランディングが行われていた時代です。
短めの軽やかな金髪を持つ女性が、藤色のドレスを身にまとっています。
襟元と袖口には、豪華なフリル。
彼女は右手に持ったガラスの小瓶から、左手の白いハンカチーフに向けて、細い線を引くように何かを吹きかけています。
手前には、実際に店頭で販売される商品の箱が置かれています。
背後には、ビザンティン風のモザイク模様。
そして、円形の花の輪が美しく展開しています。
ミュシャが描いた、ただの優雅な香水のポスター。
美しい女性が商品を手に微笑んでいるだけの、よくある商業広告。
一見すると、そう思えるかもしれません。
でも実は、違います。
これは、最新の科学技術を伝えるための、画期的な「取扱説明書」だったのです。
時代は1890年代のベル・エポック期。
新興の中産階級の女性たちの間で、化粧品や香水への需要が爆発的に高まっていました。
1896年。
フランスのリヨンに本拠を置く「ローヌ化学工場協会」が、新商品の香水「ロド」を発売します。
この製品の最大の特徴は、ガラス製の自動噴射式のスプレーボトルを採用していたこと。
当時の香水は、直接振りかけるのが一般的でした。
しかしこの「ロド」は違います。
ボタン一つで、ハンカチーフに霧状に吹きつけることができる。
それは、最新の科学技術による画期的な利便性でした。
どうすれば、この新しい使い方を女性たちに直感的に伝えられるか。
女性顧客に絶大なアピール力を誇っていたミュシャに、プロモーションが一任されました。
彼はのちに専属印刷業者となるシャンプノワのプレスを通じて、この作品を発表します。
ミュシャは、ポスターの中にひとつの仕掛けを施しました。
流れるような髪の曲線。
それは単なる美しい装飾ではありませんでした。
観る者の視線を、女性の顔からハンカチーフへ。
そして、香水ボトルへと巧みに誘導する。
完璧に計算された、ビジュアル・ナビゲーションだったのです。

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