Sky Blue スカイ・ブルー(青空)
1940年

- 寸法
- 100 × 73 cm
- 技法・素材
- 油彩、カンヴァス
- 所蔵
- ポンピドゥー・センター/フランス国立近代美術館(パリ)
✦ 見どころ(技法・色彩)
澄み渡る空色の大気フィールドに、明暗法を排したフラットで鮮烈な原色(赤、黄、緑、紫、白)が配置されています。アメーバやクラゲのようなハイブリッド生命体の内部には、微細な格子やライン模様が驚異的な細部への執着をもって描き込まれ、想像力と数学的な精密さが究極の次元で融合しています。
✦ この絵の舞台
カンディンスキーが晩年を過ごしたパリ郊外、ヌイイ=シュル=セーヌのアパートのアトリエ。その大きな窓越しに見上げた、パリ西部のモン・ヴァレリアンの丘を覆う空が舞台です。乳白色を帯びた、特有の繊細で空気感のある青い空が、現実の過酷さを忘れさせる精神的な空間として描かれています。
✦ 時代背景
1940年、第二次世界大戦下のパリ。ドイツ軍の電撃的な侵攻により、街は完全に占領下に置かれました。前衛芸術は弾圧され、物資は極端に窮乏し、画材の入手すら困難な状況でした。空襲の恐怖と社会的孤立の中で、画家たちはアトリエに幽閉されながらも、芸術の自由を守り抜くための闘いを続けていました。
澄み渡るような、美しい空色の世界。
アメーバやクラゲ、タツノオトシゴのような、不思議な生き物たちが浮かんでいます。
重力から完全に解放された、軽やかなダンス。
明るく穏やかな、夢のような空間に見えるでしょう。
平和な心で描かれたファンタジー。
そう思われがちです。
でも実は、この絵が生まれたのは暗黒の時代でした。
1940年、第二次世界大戦下のフランス、パリ。
ドイツ軍の侵攻により、街は完全に占領されていました。
ロシア出身の画家ヴァシリー・カンディンスキー、当時73歳。
彼は1933年にナチスの弾圧を逃れ、妻ニーナと共にこの地へ亡命していました。
画家マルセル・デュシャンの計らいで借りた、ヌイイ=シュル=セーヌのアパート。
その6階の一室で、彼らはひっそりと隠棲していました。
1939年、念願のフランス国籍を取得。
しかし喜びも束の間、突如として占領軍の監視下に置かれます。
売れ行きの絶たれたアトリエ。
彼は事実上の幽閉状態にありました。
やがて戦局が悪化すると、画材の入手すら事実上不可能となりました。
空襲の恐怖が日常を覆い、物質的な窮乏が彼らを追い詰めます。
絶望。
そんな極限状態の中で、彼は窓を見上げました。
アパートの窓越しに広がる、パリ西部のモン・ヴァレリアンの丘。
そこには、乳白色を帯びた、特有の繊細で空気感のある青い空がありました。
彼は筆をとります。
破局的な現実から逃れるためではありません。
精神の避難所を、自らの手で創り出すためでした。
この年、彼はフランス北部に滞在していた画家ジョアン・ミロを訪ねています。
ミロが描く、星や生命が詩的に繋がる浮遊感。
それに強く心を動かされました。
戦乱のパリに戻った彼は、キャンバスの隅々まで空色を広げます。
そして、翼の生えた鳥や蛇のような、微細な生命体を描き込みました。
赤、黄、緑、紫、白。
明暗法を捨てた鮮やかな原色が、自ら発光するように輝きます。
この続き:約407文字

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