Unfinished Painting 未完成の絵画
1944年

- 寸法
- 42×58 cm
- 技法・素材
- 板(段ボール、硬質紙)に油彩
- 所蔵
- ポンピドゥー・センター/フランス国立近代美術館(パリ、フランス)
✦ 見どころ(技法・色彩)
鮮やかな青緑色の背景と、平坦な漆黒の強い対比が特徴です。光と影で立体感を表現する伝統的な明暗法は完全に拒絶されています。黒い物体の重なり合いと、塔の構造や網目を区切る細密な白い線のみによって、空間の超現実的な深みが構築されています。晩年のカンディンスキーが到達した洗練された線描を見ることができます。
✦ この絵の舞台
この絵に特定の現実の風景は描かれていません。底知れぬ深みと精神的な無を象徴する、平坦な青緑色の空間が広がっています。画面は非対称な3つの部分に分かれ、白い網目模様の曲線、傾いた黒い塔、そして涙のしずくのような漆黒の形が、重力を持たずに浮遊しているかのような情景です。
✦ 時代背景
1944年、第二次世界大戦下のフランスで制作されました。1940年にドイツ軍がパリを占領し、1942年夏以降は画材の入手が事実上不可能になっていました。カンディンスキーはナチスの弾圧を逃れてパリ郊外に隠棲しており、物資が枯渇する極限状態のなか、市中で見つけた段ボールを支持体として絵を描き続けました。
青緑色の平坦な背景に、漆黒の形が浮かんでいます。
左には白い網目模様を持つ曲線、中央には傾いた黒い塔のような形が重なり合っています。
1933年12月。
ヴァシリ・カンディンスキーと妻のニーナは、ナチスの弾圧を逃れてフランスへ亡命しました。
パリ郊外のヌイイ=シュル=セーヌ。
アパートの6階の一室に、彼らは身を隠します。
1940年、ドイツ軍がパリを占領しました。
戦局が悪化した1942年の夏以降、フランス国内で画材を手に入れることは事実上不可能になります。
カンディンスキーは、街で見つけた段ボールや簡単な木片をテーブルに置きました。
それを代わりのキャンバスにして、絵筆を握り続けたのです。
極限状態のなかで。
彼の絵の色彩は急速に暗くなっていきました。
輪郭は鋭く、硬く構造化されていきます。
パリでの晩年の10年間、彼は社会から孤立していました。
それでも、約144点の絵画と200点以上の水彩画を生み出し続けたのです。
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