Rain, Steam and Speed – The Great Western Railway 雨、蒸気、速度─グレート・ウェスタン鉄道
1844年

- 寸法
- 91.0 × 121.8 cm
- 技法・素材
- 油彩、カンヴァス
- 所蔵
- ロンドン・ナショナル・ギャラリー
同世代が保守化する中での、最先端の機械速度への強烈な好奇心。69歳の画家が新しい時代のエネルギーと大気の混濁を画布に定着させた、執念の視覚化。
✦ 見どころ(技法・色彩)
機関車の煙突や光の反射、雨の質感には、絵具を厚く塗りつけるインパスト技法が用いられています。一方で川面や空には薄い色彩を重ね、大気に溶け込む光の粒子を表現しています。鋭い対角線構図と急激な短縮法によって、列車の猛スピードを強調する視覚効果を生み出しています。
✦ この絵の舞台
ロンドンとブリストルを結ぶグレート・ウェスタン鉄道のメイデンヘッド鉄道高架橋が舞台です。テムズ川を跨ぐ地点で、初夏の早朝から昼前にかけての激しい通り雨の中、列車がロンドンを出発して西へ向かう情景が描かれています。当時世界で最も幅が広く平坦なアーチを持つ最新鋭の構造物でした。
✦ 時代背景
1840年代初頭のイギリスは、全国に線路が敷設される「鉄道狂時代」の頂点にありました。移動速度が根本から覆される一方で、1841年の脱線事故を機に、1844年には3等客の待遇改善を義務付ける鉄道規制法が成立するなど、社会構造も大きく変化していた時代です。
激しい雨と霧が混ざり合う、湿った大気。
巨大な高架橋を斜めに横切り、黒い蒸気機関車が猛スピードでこちらへ突進してきます。
ボイラーの内部からは、真っ赤な炎の光が覗いています。
この絵はしばしば、近代化や鉄道による自然破壊への抗議だと言われてきました。
あるいは、嵐の夜に走る列車の窓から、画家が9分間も頭を出して体感した光景を描いた。
そんな劇的な伝説とともに語られることもあります。
でも実は、ターナー自身は鉄道の熱心な利用者でした。
新しい技術革新を、画題として肯定的に捉えていたのです。
1844年、ターナーは69歳。
すでに重鎮としての地位を確立し、経済的にも充足していました。
同世代の画家たちが引退や様式の固定化に向かう中。
彼は産業革命の最先端であるグレート・ウェスタン鉄道に頻繁に乗り、移動速度が根本から覆される時代を生きていました。
当時、安価な運賃の3等客は、屋根のない無蓋客車に乗せられるのが一般的でした。
1841年12月、大雨による斜面崩落で貨客混合列車が脱線します。
機関車の直後に繋がれていた無蓋客車に乗っていた石工ら、10名が死亡する惨事となりました。
悲惨な事故。
世論の反発を受け、イギリス議会は1844年に新しい法律を成立させます。
すべての乗客に対して、屋根と座席のある客車を提供することを義務付けるものでした。
ターナーがこの絵の機関車の後ろに描いたもの。
それは、雨風に晒されながら身を寄せ合う3等乗客の暗いシルエットです。
法改正によってまさに消えゆく直前の、労働者たちの姿でした。
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出典・参考資料
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