Early Sunday Morning 日曜日の早朝
1930年

- 寸法
- 89.4 × 153.0 cm
- 技法・素材
- 油彩、カンヴァス
- 所蔵
- ホイットニー美術館
単なる風景の模写という見方への静かな反逆。都市の孤独と静寂を際立たせるため、あえて人物を消し去り、嘘の影を落とした舞台空間の構築。
✦ 見どころ(技法・色彩)
極端な横長画面が、視線を水平方向に引き伸ばすパノラマ効果を生んでいます。最大の見どころは、理学的にあり得ない方向へ伸びる影です。南北の通りに東から光が差す場合、影は奥へ落ちるはずですが、画家は劇場の舞台照明のような強い横からの光を人工的に描き込みました。
✦ この絵の舞台
1930年のニューヨーク。セブンス・アヴェニューやブリーカー・ストリートの実在の建物、そして画家の故郷ナイアックの街並みなど、複数の記憶を合成して作られた架空の景観です。日の出直後の早朝、商業活動が始まる前の静寂な瞬間が描かれています。
✦ 時代背景
1929年の株価暴落に端を発する世界大恐慌の直後。街の商業活動が停止したかのような閑散とした風景は、当時の経済的停滞を想起させます。また、都市再開発によって19世紀的な赤レンガ造りの低層住宅街が高層ビル群へと変貌していく時期でもありました。
赤褐色のレンガ造りの建物が、横長の画面いっぱいに広がっています。
緑の日よけが下りた店。
赤い壁の店。
歩道にぽつんと立つ消火栓と、理髪店のポール。
静まり返った、日曜日の早朝の風景。
大恐慌時代のニューヨークの街角を、忠実に写し取った写実的な絵画。
この作品は、しばしばそのように語られます。
タイトルも『日曜日の早朝』。
誰もが、現実の景色をそのまま切り取ったのだと思うでしょう。
でも実は、この絵には大きな「嘘」が隠されています。
一つは、消された人間の存在。
もう一つは、絶対にあり得ない影の向きです。
そしてタイトルすら、画家本人がつけたものではありませんでした。
1930年、ニューヨーク。
48歳のエドワード・ホッパーは、ワシントン・スクエアのアトリエにいました。
前年に起きた株価暴落。
街には大恐慌の暗い影が落ち始めていました。
大恐慌で困窮した画家の絶望から生まれた。
そう言われることもありますが、それは事実ではありません。
ホッパーの絵は売れており、経済的には極めて安定していました。
妻のジョーとともに、規則正しい生活を送っていたのです。
誰に頼まれたわけでもない、自主的な制作。
彼が描こうとしたのは、歩き慣れたセブンス・アヴェニューの景色。
あるいは、ブリーカー・ストリートの古いレンガ造りの建物。
故郷ナイアックの街並み。
都市の再開発によって、次々と壊されようとしていた古い景色です。
ホッパーは、現実の通りをそのまま写生したわけではありません。
複数の場所の記憶を組み合わせ、一つの風景を作り上げました。
制作の途中まで。
彼は2階の窓の一つに、一人の人物を描き込んでいました。
モデルは妻のジョーだったのかもしれません。
窓辺に佇む人の姿。
しかし、完成の直前。
ホッパーはその人物を、絵具で完全に塗りつぶしました。
無人の街。
生き物の気配を、画面から一切消し去ったのです。
さらに彼は、光の法則をねじ曲げました。
南北に走る通りに、東から朝日が差すなら。
影は建物の奥へと落ちるはずです。
嘘の影。
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