Night Shadows

1921年

孤独都市版画
Night Shadows
寸法
17.5 × 21.0 cm
技法・素材
エッチング(銅版画)、紙
所蔵
メトロポリタン美術館、ホイットニー美術館、ニューヨーク近代美術館など

20世紀のアメリカ美術界において、都市や地方の景観を透徹した光影表現で捉えた具象画家である。

✦ 見どころ(技法・色彩)

銅版画(エッチング)による作品です。建物の高層階から見下ろすような急角度の俯瞰アングルを採用しています。画面外の街灯から放たれる強烈な光が、舗道を斜めに横切る巨大な影を作り出し、濃密な明暗の対比によって不穏なサスペンスを生み出しています。

✦ この絵の舞台

ニューヨーク市マンハッタンのダウンタウン、リバーフロント近くに実在した街角。角地に立つ簡素な赤レンガ造りの建物、一階の閉鎖された店舗、二階の窓のストライプ柄の日よけ、舗道上の消火栓が描かれています。深夜の静寂の中、街灯から放たれる斜光が強烈な影を落としています。

✦ 時代背景

1920年代初頭のアメリカは急速な工業化と都市化が進む過渡期にありました。ホッパーは商業イラストレーターとして生計を立てながら、都市の近代性がもたらす孤独や疎外感を版画を通じて表現し始めました。本作はのちに雑誌の特典として大量印刷され、全米に広く普及しました。

✦ 鑑賞のための問い

あなたがこの街角の窓辺から見下ろしているとしたら、どんな音が聞こえてきますか?

深夜のニューヨーク、マンハッタンのダウンタウン。
リバーフロント近くに実在した街角です。

建物の高層階から見下ろすような、急角度の視点。
角地に立つ簡素な赤レンガ造りの建物には、ストライプ柄の日よけが下がっています。
一階の店舗はすでに閉ざされ、舗道には消火栓がぽつんと置かれています。

コートを着たひとりの歩行者が、街灯が落とす巨大な影の帯に向かって歩いていく。

エドワード・ホッパーといえば、アメリカの孤独を描いた油彩画の巨匠として知られています。

でも実は、彼を絶望的な不遇の時代から救い出し、世に知らしめたのは、雑誌の付録として大量に配られたこの一枚の版画でした。

1913年、ホッパーは油彩画を1点売りました。
しかしそれ以降、彼の絵は全く売れなくなってしまいます。

生活費を稼ぐため、不本意ながら雑誌の挿絵や商業広告のイラストを描く日々。
画家としての先が見えない、苦しい時代でした。

この状況を打開しようと、彼は1915年頃から自室にプレス機を持ち込みます。
そして、銅版画の制作に本格的に打ち込み始めました。

オーストラリア出身の版画家マーティン・ルイスから、エッチングの技術を教わります。
ルイスもまた、夜の都市風景を巧みに描く名手でした。
二人は1920年代のニューヨークで、夜の光の表現を互いに磨き合ったのです。

後年、ホッパーは彼からの芸術的な影響を強く否定しようとしました。
「受けた指導は純粋に機械的な技術プロセスのみだ」と。

それでも、この時期の試行錯誤が彼の血肉となったことは間違いありません。
1920年に開かれた初の個展でも、絵画は1点も売れませんでした。

絵が売れない絶望の中、1921年に制作されたのが、この『Night Shadows』です。

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