Nighthawks ナイトホークス(夜鷹)
1942年

- 寸法
- 84.1 × 152.4 cm
- 技法・素材
- 油彩・カンヴァス
- 所蔵
- シカゴ美術館
意図的な象徴主義や社会告発への静かな拒絶。 戦火の不安が覆う都市で、妻と共にアトリエにこもり作り上げた、光に守られた架空の避難所。
✦ 見どころ(技法・色彩)
平滑な下地の上に、絵具の盛り上がりを作らずフラットに塗り重ねられています。鋭い建物の線と曲面ガラスが観客の視線を店内へ誘導しますが、出入口が描かれていないため、視線が表面へ押し戻されるような視覚的な抵抗を生み出しています。
✦ この絵の舞台
深夜から未明のニューヨーク。向かいの赤レンガの建物は暗く閉ざされ、歩道にはゴミ一つない極限まで単純化された清掃状態が保たれています。実在の店舗を描いたと信じられてきましたが、実際はホッパーが近隣の建物やアトリエの記憶を合成して作り上げた架空の都市空間です。
✦ 時代背景
1941年末から1942年初頭、アメリカが第二次世界大戦に参戦した直後の時期です。ニューヨークでは空襲を恐れて灯火管制が敷かれ、街は暗闇と緊張に包まれていました。また、蛍光灯という新しい照明技術が導入され始めた時期でもあり、その青白く人工的な光が画面に取り入れられています。
深夜の暗い街角に、青白い光を放つダイナーが浮かび上がっています。
チェリー材のカウンターには、言葉を交わさない3人の客。
奥には金属光沢を放つ大型のコーヒーボイラーが並んでいます。
白い制服を着た給仕だけが、外の世界を見つめているようです。
大都会の孤独。
互いに無関心な、見知らぬ人々の吹き溜まり。
ニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジに実在した風景。
この絵は長年、そのように語られてきました。
でも実は、この絵に描かれたダイナーは実在しません。
そして、ここにいる孤独な客たちは、見知らぬ他人ではないのです。
ホッパーは長年、マンハッタンのアトリエに暮らしていました。
日々散策し、熟知していた街。
しかし1941年12月、その見慣れた風景が一変します。
真珠湾攻撃により、アメリカは戦争に突入しました。
ニューヨークの街には防空演習のサイレンが鳴り響きます。
夜になれば、敵の潜水艦や空襲を恐れて灯火管制が敷かれました。
暗闇と不安に包まれた都市。
その中で、59歳のホッパーはアトリエに閉じこもります。
外の騒ぎから逃れるように、キャンバスに向かいました。
彼は、近所の建物の記憶を繋ぎ合わせます。
そして、頭の中にだけの架空のダイナーを作り上げました。
客のモデルは、誰に頼んだのでしょうか。
誰もいません。
ホッパーは鏡の前に立ち、自らポーズをとりました。
背中を向けた孤独な男も。
タバコを持ち、女の隣に座る男も。
どちらも画家自身の姿です。
そして、サンドイッチを手にした赤いブラウスの女。
彼女のモデルは、妻のジョーでした。
妻は夫の制作を支え、詳細な記録簿をつけています。
壁は鈍いイエローオーカー。
外壁の基部は強いジャドグリーン。
二人はアトリエで、この静かな世界を共に築き上げていきました。
ジョーは義理の姉への手紙に、こう書き残しています。
「エドは1か月半、終始没頭していました。」
「戦争の混乱に興奮する暇もないほどに。」
この続き:約386文字

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