Cape Cod Evening
1939年

- 寸法
- 76.2 × 101.6 cm
- 技法・素材
- 油彩/キャンバス
- 所蔵
- ワシントン・ナショナル・ギャラリー
迫り来る時代の暗雲と、断絶していく人間関係への静かなる警鐘。見えない脅威に怯える犬とすれ違う男女の姿に託した、近代社会の孤独と不安。
✦ 見どころ(技法・色彩)
画面右上を占める白い家は淡いブルーの影と赤い基礎を持ち、左側からは暗緑色のニセアカシアの林が迫る。女性のドレスは森と同じボトルグリーンで塗られ、自然の侵食と同調している。対話のない男女と、見えない脅威に反応する犬の構図により、静寂な恐怖が巧みに表現されている。
✦ この絵の舞台
舞台はマサチューセッツ州サウス・トゥルーロ。ただし写生ではなく、20マイル離れたオルレアンの住宅のドアや、近隣のニセアカシアの林、スタジオの窓から見えた乾燥した草など、複数の風景を組み合わせた心象風景。過疎化が進む旧捕鯨港の歴史的環境が、画面の寂寥感を下支えしている。
✦ 時代背景
1939年7月、第二次世界大戦勃発の直前に制作された。当時ケープコッドに多く住んでいたフィンランド系やスウェーデン系移民の姿が人物に投影されている。平和な家庭の象徴であったヨタカの鳴き声を不安の徴候へと逆転させ、迫り来る戦火や社会の不穏な空気を暗示している。
夕暮れ時、ビクトリア調の白い家の前。
腕を組んで立つ女性と、ステップに座り犬に手を伸ばす男性がいます。
静かな田舎の夕暮れ。
夫婦と愛犬が過ごす、穏やかな日常のひとコマに見えるかもしれません。
でも実は、この絵の主役は、画面のどこにも描かれていない「ある生き物」なのです。
1939年7月30日。
エドワード・ホッパーは、マサチューセッツ州サウス・トゥルーロでこの絵を完成させました。
妻のジョーが残した記録帳には、驚くべき事実が記されています。
この作品は元々、『ヨタカ』と名付けられる予定でした。
ヨタカとは、夕暮れ時に森の縁で鳴く夜行性の鳥のこと。
当時の流行歌では平和な家庭の象徴として歌われていましたが、ホッパーはそれを逆転させ、迫りくる不安の徴候として描きました。
画面の中央に立つ、ブラウンとホワイトのコリー犬を見てください。
主人が手を伸ばしているのに、完全に無視しています。
犬は画面の右側、姿の見えないヨタカの鳴き声に向かって耳を立て、強く警戒しているのです。
ホッパーは、この犬の姿を捉えるために奔走しました。
解剖学的な正確さを求め、わざわざトゥルーロの図書館へ行き、百科事典を調べたのです。
しかし十分な資料は得られませんでした。
諦めて郵便局の駐車場に戻った、その時。
偶然にも、前の車から子供と一緒に理想的なコリー犬が降りてきたのです。
妻のジョーが子供と犬を撫でて引き留めている間に、ホッパーは車内で急いでスケッチブックを取り出し、鉛筆で素描を完成させました。
夫婦の連携プレーによって、この緊張感あふれる犬の姿は生み出されたのです。
- この作品は 静寂の哲学者 の「あなたのための6作品」に入っています → 見る
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