Sunbathing I
1915年
✦ 見どころ(技法・色彩)
2枚の木版の表と裏、合計4つの面を使用した極めて複雑な多色木版画です。ピンク、オレンジ、赤、黄色、青、緑など8色ものインクを重ねて刷り上げています。丸鑿による豪快な削り跡と鮮やかな色彩の組み合わせにより、夏の太陽光を受けて熱を放つ岩肌のダイナミズムを見事に表現しています。
✦ この絵の舞台
舞台は、オスロ・フィヨルドの東岸に位置する村ヴィットステンの海岸線です。ムンクが1910年に購入した「ネドレ・ラム」という敷地の目の前に広がる、波風によって研磨された花崗岩の岩礁が描かれています。この丸みを帯びた岩と澄んだ海面は、後期のムンクにとって生命のエネルギーを象徴する重要な風景となりました。
✦ 時代背景
20世紀初頭のヨーロッパでは、急速な工業化による心身の疲弊への反動として「生命主義(バイタリズム)」が台頭していました。太陽の光や海水を浴びることで健康を取り戻す日光浴やヌーディズムが推奨され、日焼けした肌は労働者の証から、若さと活力のステータスへと社会的な大転換を遂げた時代でした。
波打つ岩肌の上。
太陽の光を全身に浴びて、一人の女性が横たわっています。
ムンク、という画家の名前を聞いて。
あなたは何を思い浮かべるでしょうか。
おそらく多くの人が、『叫び』を想像するはずです。
不安。
嫉妬。
そして、死の恐怖。
暗い精神世界を描いた画家。
そんなイメージが強いかもしれません。
でも実は。
彼はその暗闇から抜け出していたのです。
眩しい太陽と、生命力に溢れた世界へ。
1890年代後半。
ムンクは重い神経衰弱とアルコール依存に苦しんでいました。
家族の病。
遺伝的な狂気への恐怖。
彼の心は、崩壊の一歩手前にありました。
しかし1909年。
長きにわたる精神の彷徨から回復したムンク。
彼は祖国ノルウェーへと帰還します。
翌年、ヴィットステンという村に敷地を購入しました。
「ネドレ・ラム」と呼ばれるその場所。
そこには、深い森がありました。
そして、穏やかなプライベートビーチも。
当時のヨーロッパ。
急速な工業化で、都市の人々は心身を病んでいました。
その反動として生まれたのが、「生命主義」です。
太陽の光を浴びる。
塩分を含んだ海水に浸かる。
自然の力で、人間の生命力を取り戻す。
ヌーディズムや日光浴が、一大ブームとなっていました。
ムンクもまた、この考えに強く共鳴します。
自らも全裸になり。
イーゼルを立てて、自然と同化しました。
モデルを務めたのは、メイドのインゲボルグ・カウリン。
彼女は、この時期のムンクにとって最高のミューズでした。

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