Untitled (Study for Improvisation I) 無題(インプロヴィゼーション1のための習作)

1908年

習作
Untitled (Study for Improvisation I)
寸法
29 × 24 cm
技法・素材
紙に鉛筆、墨インク、水彩
所蔵
シュテーデル美術館 / ミュンヘン市立レンバッハハウス美術館

✦ 見どころ(技法・色彩)

極めて素早く置かれた水彩の流れるような色彩の塊と、その上に閉じた輪郭を作らず、自由に漂うように引かれたペンや鉛筆の線が特徴です。線が事物の形を説明する役割から解放され、それ自体が感情のうねりを表現する独立した要素として機能し始めています。

✦ この絵の舞台

南ドイツのバイエルン地方アルプスの麓、スタッフェル湖に臨む美しい中世風の村ムルナウ・アム・シュタッフェルゼーの自然環境が描かれています。遠景の山や中央の木々、歩く複数の人物らしき姿が、具体的な地形から徐々に溶解し始めている情景です。

✦ 時代背景

1908年、カンディンスキーがガブリエレ・ミュンターらと共にムルナウに長期滞在し、共同制作をスタートさせた時期です。彼らがバイエルンの民俗芸術である「裏彩色ガラス絵」に出会い、写実的な描写から解放され、純粋抽象へと向かう決定的な転換点となりました。

✦ 鑑賞のための問い

あなたがこの絵の中で一番最初に目を奪われたのは、どの色ですか?

黒い馬のようなシルエットが立ち上がり、その周りに赤や青、ピンクの服を着た人々が集まっています。

左側には、杖を持つ黒い服の人物。

背景には、鮮やかな色で塗られた山や木々が見えます。

この絵は、カンディンスキーが純粋な抽象画へと向かう過渡期の重要な習作です。

美術史を語る上で欠かせない一枚。

風景から事物そのものを融解させ、「インプロヴィゼーション(即興)」を獲得する。

その画期的な表現手段に至る道標として、一般的には語られます。

でも実は、この絵が今日私たちの目の前にあるのは、画家本人の力ではありません。

かつてのパートナーが、命がけで守り抜いたからなのです。

1904年。

カンディンスキーは初めて南ドイツのムルナウを訪れました。

その素朴で荒々しい風景と中世的な魅力に、彼は強く惹きつけられます。

そして1908年。

パートナーの女性画家ガブリエレ・ミュンターらと共に、この地へ長期滞在しました。

彼らは共同で制作をスタートさせます。

そこで出会ったのが、バイエルンの民俗芸術である「裏彩色ガラス絵」でした。

その素朴な技法に触れたことで、彼は写実的にコピーする義務から解放されていきます。

フォーヴィスムに強い影響を受けつつも、単なる感覚的な興奮で終わらせない。

「内面的必然性」、すなわち魂への直接的な共鳴へと方向転換させていったのです。

しかし1914年、第一次世界大戦が勃発。

カンディンスキーはロシアへ帰国することになります。

ドイツに残された初期の抽象作品群や、大量のムルナウ期のスケッチ。

それらはすべて、ミュンターに託されました。

その後、時代は暗転します。

1930年代以降、ナチスが台頭。

彼らは前衛的な芸術を「退廃美術」として指名し、没収や破棄に動きました。

カンディンスキーの作品も、その標的となります。

ミュンターは、ムルナウの自宅の狭い地下室に、これらの膨大な資料を隠し続けました。

極めて貴重な、初期モダニズムの作品群です。

この絵を含むスケッチや、『インプロヴィゼーション』の関連作など。

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