People in the Sun 陽光の中の人々
1960年

画像: Edward Hopper, People in the Sun, 1960, oil on canvas, 40 3/8 x 60 3/8 in. (102.6 x 153.4 cm.), Smithsonian American Art Museum, Gift of S.C. Johnson & Son, Inc., 1969.47.61
- 寸法
- 102.6 × 153.4 cm
- 技法・素材
- カンヴァスに油彩
- 所蔵
- スミソニアン・アメリカ美術館
抽象表現主義が席巻する美術界への、具象絵画による静かなる異議申し立て。大自然から切り離された現代人の孤立と内面の空虚さを、冷たい光と完璧な空間構成によってキャンバスに刻みつけた。
✦ 見どころ(技法・色彩)
一見すると平滑なリアリズムに見えますが、入念な下地処理と複数の色層の重なりによって硬質な光の質感が構築されています。ホッパーは光を描く際、温かみや情緒感を排し、白色顔料に黄色を極力混ぜず、冷たく峻烈なハイライトを人物の衣服やコンクリート上に塗り重ねました。容赦ない強光線が、人物たちの内面の空虚さを残酷なまでに露わにしています。
✦ この絵の舞台
描かれた舞台は実在の景勝地ではなく、ニューヨークのワシントン・スクエア・パークで日光浴をする都市住民の観察と、ホッパーが自動車旅行で訪れたアメリカ西部の広大な自然景観の記憶を合成した架空の風景です。人工的なコンクリートのテラスと荒々しい山並みという不自然な取り合わせは、西部の大自然に対する画家自身の違和感や心理的疎外感が投影されています。
✦ 時代背景
1950年代から60年代初頭のアメリカは、モータリゼーションの成熟により、自家用車で大自然へ繰り出しリゾートホテルで日光浴を楽しむ行楽文化が定着していました。一方で、高度消費社会が生み出した均一化された虚無感も蔓延していました。美術界では抽象表現主義が全盛を誇り、具象絵画は時代遅れとみなされる傾向にありました。
広大な青空と連なる山並みを背景に、コンクリートのテラスに並べられたデッキチェア。
強い日差しに向かって、5人の男女が腰掛けています。
一見すると、アメリカ西部のリゾートホテルで、快適な余暇を楽しむ観光客の姿に見えるかもしれません。
1950年代から60年代にかけて、自家用車で大自然へ繰り出し、日光浴を楽しむ行楽文化が定着していました。
この絵も、そんなバカンスの一コマを描いたものだと言われがちです。
でも実は、ここは実在する西部の景勝地ではありません。
そして彼らは、バカンスの喜悦など少しも感じていないのです。
1960年の秋。
ニューヨークのワシントン・スクエアにあるアトリエで、78歳のエドワード・ホッパーはこの絵を完成させました。
当時、アメリカの美術界はジャクソン・ポロックらに代表される抽象表現主義が圧倒的な全盛を誇っていました。
具象絵画は「古臭い」と冷遇される時代。
老いに伴う体力の衰えとスランプに直面していたホッパーは、年間わずか2点ほどしか大型油彩画を描けなくなっていました。
それでも彼は、人間の内面世界を描き出す具象絵画の力を信じ、美術館が抽象画ばかりを偏重する実態に対する異議申立書に署名までしています。
本作は、そんな彼が自らの内面で温めたテーマをキャンバスに叩きつけた、完全な自主制作作品でした。
ホッパーと妻のジョーは、長年にわたり自家用車でアメリカ大陸を横断し、グランド・キャニオンなど西部各地を巡りました。
しかし、ホッパー自身は西部の眩密な光と膨大なスケールの自然に対して、強い戸惑いと違和感を抱いていました。
東海岸で感じていた制作意欲を喪失してしまうほどに。
この絵の舞台は、そんな彼が記憶の中で合成した架空の風景です。
人物たちの着想源は、彼のアトリエのすぐ近く、ワシントン・スクエア・パークのベンチで日光を浴びる都市の住民たちでした。
ホッパーは、都市の群像を、彼が圧倒された西部の荒々しい山並みと結合させたのです。
制作にあたり、彼は何枚もの準備素描を描きました。
初期のスケッチでは人物たちの距離はもっと近く、自然な観光地の風景に近いものでした。
しかし油彩画へ移行する段階で、彼は意図的に人物間の隙間を広げ、椅子の角度を厳密に幾何学化しました。
相互の会話の不可能性と、不気味な静止感を高めるために。
この続き:約464文字

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