The Houses of Parliament,Sunset ロンドンの国会議事堂

1903年

印象派
The Houses of Parliament,Sunset
寸法
81.2 × 92.8 cm
技法・素材
麻地キャンバスに油彩
所蔵
シカゴ美術館
クロード・モネ

フランス

クロード・モネClaude Monet

1840 – 1926

「印象派の父」とも称される、フランスを代表する画家。 自然の風景や水面に反射する光、天候によって絶えず移り変わる情景を、鋭敏な感覚でキャンバスに捉えた作風で広く…

✦ 見どころ(技法・色彩)

モネは光に弱い「レッドレーキ」という顔料を多用しました。現在、画面中央の赤色は経年で退色していますが、額縁に隠れて日光を免れた端の部分には、1903年当時の鮮やかな赤色が残っています。また、X線調査により画面右下に2つの署名が重なっていることが判明しました。現場で一度署名した後にアトリエで大幅に加筆し、最初の署名が埋没したため、絵の具が乾く前に再び署名を入れ直した痕跡です。

✦ この絵の舞台

舞台はロンドンを貫くテムズ川の南岸に建つ、セント・トーマス病院の2階のテラスです。そこからテムズ川を斜めに挟んで、対岸にそびえるゴシック復興様式のウェストミンスター宮殿(英国国会議事堂)のシルエットを捉えています。当時のロンドンは産業革命の最盛期であり、石炭燃料による工業用スモッグと川霧が混ざり合い、強烈な大気汚染を引き起こしていました。モネはこのスモッグが生み出す神秘的な光の乱反射に魅了されました。

✦ 時代背景

19世紀末から20世紀初頭にかけて、ロンドンは産業革命による近代化の頂点にありました。鉄道の普及により都市観光がブームとなる一方で、膨大な石炭の燃焼による深刻な大気汚染が社会問題化していました。一般市民が嫌悪したこの汚染された空気を、モネは近代の市民生活や商業船の往来を画面から排除し、終末論的で神秘的な自然のドラマとして純粋な視覚体験へと昇華させました。

✦ 鑑賞のための問い

霧の向こうに霞む巨大な建物を見て、あなたはどんな温度や匂いを感じますか?

夕暮れの光の中、テムズ川の向こうにウェストミンスター宮殿のシルエットが曖昧に霞んでそびえ立っています。

川面には一艘の小さな手漕ぎボート。

静寂な空気が漂っています。

印象派の巨匠、クロード・モネ。

彼は、刻一刻と変化する自然の光を逃さぬよう、キャンバスを戸外に持ち出し、その瞬間の空気を素早い筆致で描き留めた画家として知られています。

この絵もまた、ロンドンの霧とスモッグが織りなす夕暮れの一瞬を、テムズ川のほとりで鮮やかに切り取ったものに見えるでしょう。

でも実は、この絵はロンドンの空の下で完成したものではありません。

それどころか、モネは一度完成させたはずのこの絵をフランスのアトリエに持ち帰り、3年もの歳月をかけて執拗に描き直していたのです。

1899年から1901年にかけての冬。

モネはロンドンを訪れました。彼が拠点のひとつとしたのは、テムズ川南岸にあるセント・トーマス病院の2階テラスです。

当時のロンドンは産業革命の最盛期。膨大な石炭燃料から生じる工業用スモッグが川霧と混ざり合い、強烈な大気のスクリーンを作っていました。人々が嫌悪したこの汚染された空気を、モネは神秘的な自然のドラマとして見つめました。

彼はテラスに最大19枚ものキャンバスを並べました。

そして、刻々と変わる太陽光と霧の状況に合わせて、狂気的な速度でキャンバスを入れ替えながら大気の状態を記録していったのです。

水面の絵の具がまだ乾ききらないうちに、彼は画面の右下に「Claude Monet」と署名を入れました。

それは、この風景を確かに捉えたという宣言のはずでした。

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