Banks of the Seine,Vétheuil ヴェトゥイユのセーヌ川の岸辺

1880年

印象派自然
Banks of the Seine,Vétheuil
寸法
73.4 × 100.5 cm
技法・素材
キャンバスに油彩
所蔵
ナショナル・ギャラリー(ワシントンD.C.)
クロード・モネ

フランス

クロード・モネClaude Monet

1840 – 1926

「印象派の父」とも称される、フランスを代表する画家。 自然の風景や水面に反射する光、天候によって絶えず移り変わる情景を、鋭敏な感覚でキャンバスに捉えた作風で広く…

✦ 見どころ(技法・色彩)

対象の質感に応じて、驚くほど細かく筆遣いが使い分けられています。川の表面には、平筆による素早く短い水平方向のタッチが多用され、空には丸みを帯びた渦を巻くようなストロークが重ねられています。手前の鬱蒼とした草花は、濃厚な絵の具を用いた複雑な厚塗りで描写されており、屋外での制作後にアトリエで幾度も加筆・修正されたものです。

✦ この絵の舞台

舞台は、パリから約60キロメートル離れたセーヌ川沿いの村、ヴェトゥイユ付近に浮かぶ「フルール島(花の島)」と呼ばれる中州の岸辺です。画面中央を流れるセーヌ川は穏やかにうねり、対岸の瑞々しい新緑と木々の塊を鏡のような水面に映し出しています。手前には野生の草花や背の高い雑草が生い茂り、鑑賞者の視線を野生の自然へと引き込みます。

✦ 時代背景

1880年という時期は、モネの芸術観における本質的な転換点でした。前年に最愛の妻カミーユを亡くし、精神的・経済的な絶望のどん底にあった彼は、それまで追求していた近代市民生活のレジャーや都市の光景への興味を失います。代わりに、絵画の表面、つまりキャンバスの質感そのものの自律性へと関心を移し始めました。

✦ 鑑賞のための問い

手前の草花と奥の空や川。筆のタッチの違いから、どのような空気感の違いを感じますか?

画面の手前には、白い花をつけた野生の草花が生い茂っています。
その向こうにはセーヌ川が穏やかにうねり、対岸の木々を鏡のような水面に映し出している。

印象派の画家であるクロード・モネ。
刻一刻と変わる光を捉えるため、屋外で素早く絵の具を乗せていったと言われがちです。
この絵の草花も、風に揺れる一瞬の姿を戸外で一気に描き留めたかのように見えます。

でも実は、この手前の鬱蒼とした草花は、屋外での一度の制作で描かれたものではありません。

1878年、深刻な財政難に陥ったモネ。
彼は近代化が進むアルジャントゥイユを離れました。
パリから約60キロメートル離れた、素朴で静かな村、ヴェトゥイユへの移住です。
しかし翌1879年9月。
最愛の最初の妻カミーユが、32歳の若さで病没します。
精神的にも経済的にも絶望のどん底にあったモネにとって、この1880年という時期は、芸術観の大きな転換点となりました。

それまで追求していた都市の光景やレジャーへの興味は、急速に薄れていきました。
代わりにモネは、キャンバスの質感そのものが持つ自律性へと関心を移し始めたのです。
自然が見せる一瞬の光の変化を捉えるために、屋外で迅速に制作する。
その一方で、彼は戸外で描きかけた作品をヴェトゥイユのアトリエに持ち帰るようになりました。
そして、絵の具の層が乾燥した後に、幾度も重ねて入念に再構築を行ったのです。

モネは1880年の初め、これとほぼ同一の構図を持つ、一対のような関係にあるもう1点の作品『ヴェトゥイユ付近のフルール島』を完成させています。
そちらが全体的に暖色系の温かみのあるトーンでまとめられているのに対し、本作は、冷涼な空気感と冷たい光の反射が支配する寒色系の美しさを備えています。

モネは自身の芸術的信念について、こう語っています。
「私にとって、風景はそれ単体としてはほとんど存在しない。なぜならその姿は刻一刻と変化し続けるからである。」
「しかし、風景は絶え間なく変化する周囲の空気、そして光によってこそ命を吹き込まれるのだ」

この絵は、アメリカに印象派を本格的に紹介したアメリカ美術協会の共同設立者、ジェームズ・F・サットンがモネから直接買い取りました。
1915年に彼が亡くなった後、1933年10月にニューヨークで開催された遺産オークション。
世界恐慌の直中であったにもかかわらず、熱心なコレクターたちが集まりました。
この時、本作を競り落としたのが、後にワシントン・ナショナル・ギャラリーの絵画コレクションの根幹を築くことになる金融家、チェスター・デールだったのです。

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