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In the Dining Room 食堂にて

1886年

印象派犬
In the Dining Room
寸法
61.3 × 50.0 cm
技法・素材
キャンバスに油彩
所蔵
ワシントン・ナショナル・ギャラリー
ベルト・モリゾ

フランス

ベルト・モリゾBerthe Morisot

1841 – 1895

19世紀フランスを代表する印象派の女性画家であり、同グループの創設メンバーの一人。

✦ 見どころ(技法・色彩)

画面全体を覆う、あらゆる方向へ流れる素早く激しい筆跡が見どころです。メイドの紺色のドレスと白いエプロンが強い明暗の対比を作る一方、周囲の壁や家具は青やピンク、紫のタッチが混ざり合い、形態が背景に溶け込むような視覚的なブレを生んでいます。この表現主義的なタッチにより、家事の動作や犬の鳴き声、光の明滅といった「時間の断片」を見事に捉えています。

✦ この絵の舞台

パリのヴィルジュスト通り(現在のポール・ヴァレリー通り)にある、モリゾ夫妻が1883年頃に建てた自宅兼アトリエの食堂です。モリゾはこの新居を単なるプライベートな空間としてだけでなく、「サロン=アトリエ」として組織し、自身の主要な絵画の舞台として機能させました。画面には高い飾り棚や丸テーブルが配され、豊かな光が差し込む中流家庭の洗練された生活空間が描かれています。

✦ 時代背景

1886年は、印象派グループの歴史を締めくくる「第8回(最後)の印象派展」が開催された年です。当時のブルジョワ社会において、女性の行動範囲は厳しく制限されていました。男性画家がカフェや街路など公共空間を自在に描いたのに対し、女性画家は家庭内などに主題を限定されましたが、モリゾはその制約を逆手に取り、近代女性の主体的なあり方を描き出しました。

✦ 鑑賞のための問い

ふと振り返った彼女は、この直前までどんな家事をしていたと思いますか?

画面の中央で、一人の女性がふと手を止めています。

紺色のドレスに、清潔な白いエプロン。

足元では、茶色い斑点のある小さな白い犬がじゃれついています。

ここはパリのヴィルジュスト通り。

画家ベルト・モリゾの自宅の、光あふれる食堂です。

左側には、天井まで届きそうな高い飾り棚。

ガラス扉の奥には、銀製や磁器の食器が並んでいます。

右側の丸テーブルには、デカンタと色鮮やかな果物。

彼女は、この家で働くメイドでした。

19世紀後半のフランスにおいて、中流家庭を支える女性使用人は欠かせない存在です。

当時の男性画家たちも、彼女たちをよく画題にしました。

しかし、その多くは冷酷な階級社会の悲惨さを強調するもの。

あるいは、性的な眼差しを向けたものでした。

過酷な労働に疲弊する、名もなき下層階級の女たち。

それが、当時の絵画におけるメイドの一般的な姿でした。

でも実は、モリゾの眼差しは全く違っていたのです。

彼女は自身の家庭で働く使用人を、温かい敬意を持って描きました。

親密な生活を分かち合う、大切な存在として。

モデルとなった女性の名前は、パジー。

もともとは、モリゾの母親が南フランスを訪れた際に見つけた人物です。

十代の純朴な田舎の少女だった彼女は、メイドとしてパリへ連れてこられました。

モリゾがウジェーヌ・マネと結婚したあとも、パジーは新居に同行します。

そして1879年に生まれた一人娘、ジュリの信頼厚い乳母となりました。

家族の生活に、決して欠かすことのできない存在だったのです。

モリゾは極めて寡黙な性格でした。

社交界では「冷淡だ」と噂されることもあったほどです。

愛想笑いを浮かべ、誰とでもうまくやる。

そんな器用な生き方は、彼女にはできませんでした。

だからこそ、日常のパーソナルな領域を共有するパジーには、深い信頼を寄せていたのです。

パジーをモデルにした絵を、モリゾはいくつも残しています。

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