The Departure of the Boats, Étretat 船の出港、エトルタ

1885年

印象派海
The Departure of the Boats, Étretat
寸法
73.5 × 93.5 cm
技法・素材
キャンバスに油彩
所蔵
シカゴ美術館
クロード・モネ

フランス

クロード・モネClaude Monet

1840 – 1926

「印象派の父」とも称される、フランスを代表する画家。 自然の風景や水面に反射する光、天候によって絶えず移り変わる情景を、鋭敏な感覚でキャンバスに捉えた作風で広く…

✦ 見どころ(技法・色彩)

ペールブルー、ソフトピンク、パープル、冷たいセージグリーンといったパステル調の色彩が特徴です。濡れた石礫の砂浜は、絵の具が乾かないうちにさらに色を重ねる手法で、しっとりとした輝きが表現されています。X線調査により、小屋の窓を消したりウィンチの角度を変えたりと、室内でじっくりと構図を練り直した痕跡が確認されています。

✦ この絵の舞台

ノルマンディー地方エトルタの海岸です。粗い丸石のビーチには「カロージュ」と呼ばれる、引退した漁船の船体にコールタールを塗った木板の屋根を葺いた独特の小屋が並んでいます。地元の漁師たちが網や漁具の保管庫として再利用したもので、エトルタ固有の歴史的景観を形成しています。

✦ 時代背景

1880年代のエトルタは、高名な作家たちの逗留により、パリの中産階級に人気の夏季リゾートとして過密を極めていました。モネはあえてリゾート客が立ち去った晩秋から冬の静寂を狙って滞在しました。画面には観光を楽しむ中産階級の女性と、自然の荒波と格闘する労働者が並置され、近代フランスの階級的な二面性が示されています。

✦ 鑑賞のための問い

あなたがこのホテルの窓辺に立っていたら、波の音と風の音、どちらが大きく聞こえると思いますか?

ノルマンディーの荒々しい海に向かって、漁師たちが小舟を押し出そうとしています。
手前には、古い船体を逆さにして屋根を葺いた「カロージュ」と呼ばれる独特の小屋。

刻一刻と変わる光を捉えるため、モネは常に戸外でキャンバスを広げた「光のハンター」として知られています。
同時代を生きた作家のギィ・ド・モーパッサンも、このエトルタの海岸でモネの姿を目撃しました。
「野生の獲物を追い詰めるハンターのようだ」
数分間しか続かない光線を仕留めるため、モネは5、6枚のキャンバスを抱えました。
数分ごとに切り替えながら、海岸を駆け巡っていたといいます。

しかし実は、この絵が描かれたのは、吹きすさぶ風の中ではありませんでした。

1885年の秋。
45歳のモネは家族とともにエトルタに滞在していました。
夏の賑やかなリゾート客が去った後の、晩秋から冬の静寂を狙ってのことです。
海岸沿いの定宿「ホテル・ブランケ」に滞在していた11月24日。
激しい雨と強風に見舞われたモネは、客室に避難しました。
そして、窓を閉め切り、安全な室内から眼下の景色を見下ろして描いたのです。

アリス・オシュデへの手紙には、こう綴られています。
「午後になって激しい雨と強風に見舞われたため、私は部屋の窓を閉め、室内からこの窓越しのカロージュに没頭せざるを得なかった。しかし、私はこの厳しい自然との静かな対話に、何よりも大きな喜びを見出している」

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