Fumée d’ambre Gris (Smoke of Ambergris) アンバーグリスの煙

1880年

Fumée d’ambre Gris (Smoke of Ambergris)
寸法
139.1 × 90.6 cm
技法・素材
キャンバスに油彩
所蔵
クラーク美術館

アメリカ人の両親のもとイタリアで生を受け、パリで若年期を過ごしたのちロンドンを拠点に活躍した画家。

✦ 見どころ(技法・色彩)

「白のバリエーション」による色彩的な多声性が最大の見どころです。冷たい純白から乳白色、クリーム色、真珠のようなグレーまで、驚くべき階調で描き分けられています。極細の筆で引かれたシルバーのブローチや、袖口のオレンジ色、赤く塗られた爪が、白一色の画面に鮮烈なアクセントを与えています。

✦ この絵の舞台

1879年の冬、サージェントが旅したモロッコのタンジールで着手されました。しかし、描かれている白い大理石の柱と高いアーチのある空間は、特定の現実の場所ではありません。北アフリカ各地の建築ディテールや衣装を恣意的に組み合わせ、パリのアトリエで構築された「西欧の眼が捉えたオリエンタルの幻想」の舞台です。

✦ 時代背景

1870年代後半から1880年代前半にかけて、フランスの芸術界では北アフリカや中東をテーマとした「オリエンタリズム」が一大センセーションを巻き起こしていました。当時23歳のサージェントは、この流行を意識しつつも、単なる通俗的なエキゾチシズムにとどまらない独自の視覚言語を模索していました。

✦ 鑑賞のための問い

あなたがこの部屋に立っていたら、どんな香りがすると思いますか?

白い衣装をまとった女性が、銀の香炉から立ち上る煙を浴びている。
頭上にベールを掲げ、テントのようにして香りを衣服に吸い込ませる静謐な姿。

モロッコのタンジールで営まれる、エキゾチックな日常の儀式。
私たちは、19世紀の北アフリカのリアルな光景を覗き見ているように感じます。

でも実は、この空間は現実には存在しません。
これはパリのアトリエで緻密に組み立てられた、幻想の舞台なのです。

1879年の冬。
23歳のジョン・シンガー・サージェントは、モロッコのタンジールへ旅立ちました。
異国情緒と、新たな芸術のインスピレーションを求めて。

フィレンツェでアメリカ人の両親のもとに生まれ、ヨーロッパ各地を遍歴して育った彼。
特定の国籍にとらわれない無国籍的な視野を持つ若き画家は、未知の文化に強く惹きつけられました。

彼は現地で家を借り、中庭でモデルをポーズさせてスケッチを重ねます。
手のポーズひとつにもこだわり、入念な素描を残しました。
しかし、彼が描きたかったのは、単なる旅行記ではありませんでした。

パリのアトリエに戻った彼は、集めた素材を再構築します。
北アフリカ各地の建築ディテール。
様々な衣装。
それらを恣意的に組み合わせ、「西欧の眼が捉えたオリエンタルの幻想」を作り上げたのです。

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