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コンソレーション(慰め)第3番 変ニ長調 S.172/3

Consolation No. 3S. 172/31850年作曲
コンソレーション(慰め)第3番 変ニ長調 S.172/3
フランツ・リスト
フランツ・リスト

1811–1886 (ハンガリー)

19世紀のロマン派を代表するハンガリー出身の作曲家であり、音楽史にその名を刻む史上最高のピアニスト。

この曲を一言で表すと

リストが夜想曲の響きに託した、静かな祈りと内省の物語。穏やかな波のような伴奏にのせて、言葉にならない想いが歌われる一曲。

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コンソレーション(慰め)第3番 変ニ長調 S.172/3

曲解説・楽曲分析

どんな場面を描いた曲か ― なぜこのタイトルなのか

静かな夜、一人で物思いにふけるとき、心に浮かぶのはどんな風景でしょうか? フランツ・リストが1849年から1850年にかけて作曲した「コンソレーション(慰め)第3番 変ニ長調」は、まさにそのような内省的な時間へと私たちを誘うピアノ小品です。

この時期、リストの人生には大きな転機が訪れていました。彼はヨーロッパ中を熱狂させたヴィルトゥオーゾ(超絶技巧を持つ名手)としての華やかな演奏旅行生活に終止符を打ち、ザクセン=ワイマール=アイゼナハ大公国の大公妃マリア・パヴロヴナの招きに応じて、ワイマール宮廷の楽長として定住し始めていたのです。大公妃はリストの熱心な支持者であり、彼とともに音楽を深く研究する時間を持っていました。この緊密な関係が、本曲集全体の精神的な土台となっています。

曲集全体のタイトルである『コンソレーション(慰め)』の由来については、当時のリストが傾倒していたロマン主義文学との結びつきが指摘されています。最有力とされるのは、アルフォンス・ド・ラマルティーヌの詩集『詩的で宗教的な調べ』に収められた詩「涙、あるいは慰め」です。リストは同時期に同名のピアノ曲集も手がけており、文学的テーマの並行性が顕著に表れています。また、フランスの文芸評論家シャルル=オーギュスタン・サント=ブーヴが1830年に発表した、宗教的信仰の喪失を補う友情の絆を謳った詩集『コンソレーション』からの影響も挙げられています。実際、1850年にパリで出版されたフランス版楽譜には、本作に『6つの詩的瞑想』という副題が付与されていました。

なぜリストは、この曲に変ニ長調を選んだのでしょうか。リストの調性美学において、「ホ長調」は天上的な光や神聖な愛を表す調としてしばしば用いられます。それに対し、「変ニ長調」はより内省的で親密な、夜想曲的な安らぎを象徴する調性です。華やかなステージから退き、自己の内面と向き合う時間を手に入れたリストにとって、変ニ長調は自らの心を映し出すのに最もふさわしい響きだったのかもしれません。

この曲は、1849年10月に死去したフレデリック・ショパンへの公式な「追悼・葬送曲」として書かれたと言われがちですが、実際は少し異なります。リスト自身が手紙や自筆譜などで、本作をショパンへの追悼曲だと公式に位置づけた記録は存在しません。しかし、ショパンの『ノクターン 変ニ長調 作品27の2』と同一の調性、同一の拍子、類似した左手の広域アルペジオ(分散和音)伴奏、そして装飾的な歌唱風旋律といった極めて密接な音楽的共通性を持っていることは事実です。そのため、公式な追悼プログラムを持つ標題音楽というよりは、ショパン的な書法を巧みに取り入れたリストによる「私的な哀悼とオマージュ(敬意の表明)」であったと考えるのが、現代の音楽学における客観的な見方です。

なお、この曲の明確な公開初演の日付や会場に関する公式な記録は残っていません。当時のピアノ小品(キャラクター・ピース)の多くは、大衆向けの公開演奏会ではなく、リストがワイマールに構えていた居宅「アルテンブルク」をはじめとする半私的なサロンにおいて、リスト自身や弟子たちの手によって演奏され、紹介されていったという受容慣習があったためです。また、リストの他の超絶技巧的な作品群とは異なり、アマチュア演奏家でも比較的演奏しやすい穏やかな技術水準であったことから、19世紀後半を通じて家庭やサロンで広く愛好されるようになりました。

物語 ― この曲で何が起きているのか

リストは最初からこの曲を第3番として作曲したわけではありませんでした。彼が『コンソレーション』の創作に最初に着手したのは1844年のことです。1844年から1849年にかけて全6曲からなる第1稿がまとめられましたが、リストはこれをそのまま出版することはせず、大規模な改訂と楽曲の差し替えを行いました。

この移行において、最も劇的な変化を遂げたのがこの第3番です。第1稿における第3曲は、ハンガリー民謡に基づくホ長調の楽曲でした。しかしリストは、この楽曲を曲集から完全に除外します。そして、その代わりに新しく書き下ろされ、挿入されたのが、現在私たちが知る変ニ長調の第3番なのです。なお、外された旧第3曲の主題は、後に『ハンガリー狂詩曲第1番』へと転用されています。

曲は、深い低音の響きから静かに幕を開けます。左手が穏やかな波のようなアルペジオを奏でる中、右手がベル・カント(美しい歌唱)を思わせるリリカルな旋律を歌い始めます。それはまるで、言葉にならない想いを一つひとつの音に託しているかのようです。

音楽が進むにつれて、穏やかだった風景に少しずつ影が差し込みます。ヘ短調という暗い調性へと足を踏み入れ、心が揺れ動く様子が描かれます。その後、ヘ長調やイ短調へと次々に景色を変えながら、感情の起伏が高まっていきます。

しかし、最後には再び元の穏やかな変ニ長調へと帰り着きます。すべてを包み込むような静寂の中、意表を突くような神秘的な和音が挿入され、音楽はゆっくりと光の中に溶けていくように終わりを迎えます。

この際立った旋律の美しさは、ピアノという楽器の枠を超えて愛されてきました。リスト自身がオルガンやハルモニウムのために編曲したほか、ベルギーのチェリストであるジュール・ド・スヴェルトとの共同作業によるチェロとピアノのための編曲版も作られました。さらに、19世紀末の伝説的なハープ奏者エドムント・シュエッカーによるハープ独奏用編曲は、ハープの倍音特性に変ニ長調の響きが合致することから、同楽器の重要なレパートリーとなっています。現代においても、ヴァイオリンやフルートなど様々な旋律楽器のための編曲が出版されており、器楽的な歌の素材として広く活用されています。

また、文学界においてもこの曲の精神的モチーフは影響を与えています。カズオ・イシグロの小説『充たされざる者』は、ある著名なピアニストの混迷を描いた作品ですが、その原題および精神的モチーフは、ラマルティーヌの『コンソレーション』の詩章に深く共鳴していることが研究者によって指摘されています。

この曲が現代の私たちに届くまでには、楽譜をめぐる長い物語がありました。1850年に出版された第2稿が世界的に流通する基盤となりましたが、20世紀に入ると学術的な研究が進みます。1970年代からの『新リスト全集』では、現存する自筆譜や初期の印刷譜を徹底的に比較検討した信頼性の高い楽譜が作られました。さらに1992年には、長らく未出版だった第1稿がワイマールのアーカイブから発掘され、第2稿と併記される形で出版されるという記念碑的な出来事もありました。私たちが今日目にする楽譜には、リストの意図を正確に伝えようとする多くの研究者たちの情熱が込められているのです。

楽曲分析 ― 2つの時間が溶け合うとき

この曲の美しさを支えているのは、精緻に計算されたリズムと和声、そして音響の設計です。ここでは、その秘密を紐解いていきましょう。

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この続き:約2,751文字

  • ・「ショパンへの追悼曲」という通説の真実
  • ・冒頭の低音が抱える演奏上のジレンマ
  • ・左右の手が刻む異なる時間が生む浮遊感
  • ・終盤に隠された和音のサプライズ

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