Les hasards heureux de l'escarpolette ぶらんこ
1768年

- 寸法
- 81.0 cm × 64.2 cm
- 技法・素材
- 油彩・カンヴァス
- 所蔵
- ウォレス・コレクション(ロンドン)
18世紀のフランス美術を代表するロココ期の巨匠。南仏のグラースに生まれ、パリでジャン・シメオン・シャルダンやフランソワ・ブーシェといった著名な画家たちのもとで修…
✦ 見どころ(技法・色彩)
修復によって蘇った鮮烈な色彩と、計算し尽くされた構図が見どころです。女性のドレスには西洋茜と朱色が惜しみなく使われ、鉛白のハイライトと交わることで絹織物の光沢を完璧に表現しています。至近距離で見ると荒く素早い厚塗りのタッチですが、離れて見ると空気感や光の揺らぎに変わる「計算された混沌」の技法が使われています。女性だけに強烈な光を当て、ドレス自体が発光しているかのような効果を生み出しています。
✦ この絵の舞台
描かれた舞台は、実在する特定の庭園を忠実に写したものではなく、画家の構想によって再構成された「理想化された私的庭園」です。18世紀半ばのフランスでは、密生した樹木やバラのアーチで囲まれた手入れされすぎていない庭園が、貴族たちの秘密の恋の駆け引きの場として好まれました。フラゴナールがイタリア留学時代に見た過剰に茂る植物や古代彫刻の記憶が、この豊潤で過密な情景に統合されています。
✦ 時代背景
制作された1760年代後半は、ルイ15世治世末期のアンシャン・レジーム下。宮廷貴族社会では「リベルティニスム(自由思想・愛欲主義)」と呼ばれる、不貞や秘密の恋愛を戯れとして愉しむ道徳観念が定着していました。王立アカデミーが厳格な歴史画を理想とする一方で、新興の富裕層や貴族たちは個人的な楽しみに満ちた官能的な絵画を求め、美術界にも二つの価値観が対立・共存していた時代です。
鬱蒼と茂る木々の間から差し込む光。
ピンクのシルクドレスを着た若い女性が、ぶらんこで宙を舞っています。
左足から脱げ落ちた小さな靴が、宙を飛んでいます。
左下の茂みには、若い男が身を潜めています。
彼女のスカートの中を見上げる、絶好の位置です。
右下の暗がりでは、年配の男性が微笑みながらぶらんこのロープを引いています。
18世紀フランスのロココ美術を代表するこの作品。
長年、ある宮廷貴族の悪ふざけのような注文から生まれたと語られてきました。
右下の暗がりでぶらんこを引くのは「司教」である。
聖職者を不道徳な密会に加担させるという、貴族の風刺的な要求が描かれているのだと。
また、注文主は54歳のサン=ジュリアン男爵である。
それが長年の通説でした。
でも実は、近年の研究と科学調査によって、これらの定説は次々と覆されています。
2021年、ウォレス・コレクションで約100年ぶりの修復作業が行われました。
分厚く黄変したニスが取り除かれたのです。
すると、右下の年配男性が着ているのは黒い聖職者の服ではありませんでした。
鮮やかな青い世俗の服であることが、科学的に証明されたのです。
司教は、最初から描かれていませんでした。
この絵の裏には、画家フラゴナールの、人生を賭けた選択がありました。
1765年、フラゴナールは歴史画の大作で王立アカデミーから絶賛されます。
国王ルイ15世による買い上げも受けました。
公式な歴史画家としての、輝かしいキャリア。
誰もが羨む栄光を手にしたはずでした。
しかし、現実は甘くありません。
王室からの報酬支払いは滞りがちだったのです。
膨大な労力を要する重苦しい歴史画に縛られることを、彼は嫌いました。
そんな1767年の秋頃。
劇作家シャルル・コレの記録によれば、ある宮廷貴族が奇妙な依頼を持ち込みます。
最初は、歴史画家ガブリエル=フランソワ・ドワイヤンへの依頼でした。
「私の愛人をぶらんこに乗せ、司教にそれを引かせろ」
「私は茂みに身を潜めて、彼女の脚を見上げる構図にしてほしい」
ドワイヤンは、歴史画家としての品格に反するとしてこれを拒絶します。
そして、この依頼はフラゴナールへと回ってきました。
注文主は54歳のサン=ジュリアン男爵だと言われてきました。
しかし画中の求婚者が20歳前後の若者であることから、近年では見解が変わっています。
当時18歳だった彼の息子か、別の若い宮廷貴族だった可能性が高いとされています。
フラゴナールは、この不道徳な依頼を引き受けました。
即金で高額な報酬を支払う、個人コレクター向けの私的な絵画。
それは、アカデミーの公的路線からの離脱を意味していました。
しかし彼は、ただ言いなりになったわけではありません。
聖職者を密会に加担させる図像は、検閲を受ける危険がありました。
だからこそ、ぶらんこを引く人物を司教から青い服の男性へと、密かに変更したのです。
- この作品は 華麗なるエンターテイナー の「あなたのための6作品」に入っています → 見る
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出典・参考資料
- The Swing (Fragonard) - Wikipedia
- Fragonard's masterpiece The Swing goes back on display after conservation - The Wallace Collection
- Fragonard's The Swing has been restored—and it's saucier than ever - The Art Newspaper
- The Bishop and the Petticoat: How Fragonard's The Swing Began as an Aristocratic Prank - Meron
- The swing, 1782 by Nicolas de Launay, after Jean-Honoré Fragonard :: | Art Gallery of NSW
- Les hasards heureux de l'escarpolette (The Swing) - The Wallace Collection
- Les Hasards heureux de l'escarpolette - Wikipédia
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