La Loge(劇場の特別席にて)

孤独都市

華やかな人工の光を一身に浴びる、鮮やかな赤いドレスとピンクの羽飾り帽子の女性。

しかしその隣には、暗がりに沈み、どこか退屈そうで心ここにあらずといった表情の紳士が座っている。

19世紀後半、ベル・エポック期のパリ。劇場やオペラ座の「桟敷席(ロージュ)」は、単に舞台を鑑賞するための場所ではなかった。

新興ブルジョワジーや上流階級の人々が、自らの富や最新のファッションを見せつけ、人脈を築き上げるための、いわば「第二の舞台」だったのだ。

当時の女性たちにとって、劇場は堂々と出入りできる数少ない公の社交場でもあった。
絵の中の彼女が意識しているのは、舞台上の演目ではない。

劇場中の群衆から自分に向けられる視線であり、彼女自身がこの華やかな夜のヒロインを演じているのだ。

しかし、ベローの鋭い観察眼は、きらびやかな社交界の光だけを捉えたわけではなかった。 光り輝く女性と、影に追いやられた無関心な男性。
この残酷なまでの対比は、他者の視線と見栄が渦巻く狂騒の中で、ふと訪れる「近代特有の孤独」や「他者との断絶」を静かに浮き彫りにしている。

馬車に隠れて街の日常を観察し続けた「近代生活の画家」は、劇場という限られた空間においても、着飾った男女の間に潜む複雑な心理ドラマを、見事に描き出しているのだ。

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フランス

ジャン・ベローJean Béraud

1849 – 1935

ベル・エポック期のパリを克明に記録し、「近代生活の画家」として名声を博したフランスの画家。

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