Die Quelle (The Spring) 泉
1895年

- 寸法
- キャンバス: 113.03 cm × 87.63 cm
- 技法・素材
- キャンバスに油彩
- 所蔵
- ロサンゼルス・カウンティ美術館(カリフォルニア州)
✦ 見どころ(技法・色彩)
黒い森の深緑と岩肌の焦茶色という重厚な大地の色をベースに、衣服や天使たちの柔らかな肌のトーンが祝祭的な光を放っています。彫刻的な男の身体の輪郭は、岩の質感と有機的に一体化しています。また、画家自身が模様を手描きした肉厚のオリジナル木製額縁に収められている点も大きな見どころです。
✦ この絵の舞台
豊かな森の木々と巨大な岩壁に囲まれ、澄んだ水が湧き出る神秘的な源泉のほとり。トーマが黒い森やアッパー・ライン地方で観察したドイツ固有の自然に基づいていますが、人物像が配置されることで、時間と場所を超越した古代の理想郷(アルカディア)へと変容しています。
✦ 時代背景
1890年代のドイツでは、アカデミズムの歴史画や印象派の光学処理に対抗する動きがありました。トーマはローマで交友した「ドイツ・ローマ派」の理念を受け継ぎ、古典的な思想と精神的象徴性を宿した心象風景を追求。本作が描かれた1895年は、彼がドイツ画壇の頂点へと上り詰めつつあった時期です。
深い森の奥、巨大な岩壁から湧き出る澄んだ泉。
筋肉質な裸体の男が身をかがめています。
岩場から湧き出る新鮮な水を、直接口に含もうとしているのです。
その傍らでは、衣をまとった女性が弦楽器を奏でています。
横では、裸の子供が小さな縦笛を吹いている。
空を見上げれば、翼を持った二人の幼子が手を取り合い、楽しげに宙を舞っています。
この絵を描いたのは、ハンス・トーマ。
1895年、彼がフランクフルト市民からの評価を決定づけた時期の作品です。
のちに美術館長に就任する彼は、ドイツ画壇の頂点へと上り詰めつつありました。
トーマは1870年代、ローマで活動していた芸術家たちと深く交わりました。
ハンス・フォン・マレーズやアルノルト・ベックリンといった仲間たちです。
当時の美術界は、凡庸な歴史画を描くアカデミズムが主流でした。
あるいは、網膜的な光学処理に終始する印象派。
しかし、彼らはそれに抗った。
目に見える現実だけを写し取るのではありません。
古典的な思想と精神的な象徴性を宿した、神話世界を追求したのです。
トーマは、自らの足で歩いた黒い森やアッパー・ライン地方の自然を深く観察しました。
湿潤な大気を思わせる深緑。
ゴツゴツとした岩肌の焦茶色。
彼が愛したドイツ固有の自然。
それはキャンバスの上で、時間と場所を超越した理想郷へと変容していきました。
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