Mademoiselle Caroline Rivière カロリーヌ・リヴィエール嬢の肖像
1806年

- 寸法
- 縦 100.0 cm × 横 70.0 cm
- 技法・素材
- 油彩・カンヴァス
- 所蔵
- ルーヴル美術館
「心奪われるほど魅力的な娘」と評した少女の若々しい美しさと、純真さの中にひそむ過渡期の官能性を、写実を超えた流麗な曲線美によって永遠に留めようとした。
✦ 見どころ(技法・色彩)
少女の首は不自然なほど長く引き伸ばされ、額から鼻筋にかけてのラインは一直線に描かれています。これはデッサンの狂いではなく、画面内の線の流れと優美なフォルムを強調するための計算された変形です。純白のドレスと手袋のブラウンの対比、浅い奥行きの背景が人物のシルエットを際立たせています。
✦ この絵の舞台
パリ郊外のサン=ジェルマン=アン=レイ近郊のセーヌ川流域の景観をモデルにした、木々の芽吹きと澄んだ青空が織りなす「早春」の理想化された風景。
✦ 時代背景
1805〜1806年。フランスがナポレオン・ボナパルトの下で第一帝政へと移行し、新興ブルジョワジーが台頭した時期。美術界ではダヴィッド流の新古典主義が全盛を誇っていた。
木々の芽吹きと澄んだ青空が織りなす早春の風景を背に、純白のドレスをまとった少女が静かな視線を投げかけている。彼女の透き通るような白い肌と、どこか儚げで落ち着いた表情は、見る者の心を一瞬にして捉えて離さない。
心奪われるほど魅力的な娘
1805年のパリ。フランスがナポレオン・ボナパルトの下で執政政府から第一帝政へと急速に移行しつつあった激動の時代。若き画家ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングルは、新政権を支える宮廷官僚フィリベール・リヴィエールから、家族3人の肖像画を一括して制作するという重要な依頼を受けた。
当時、アングルは若手画家の登竜門であるローマ賞のグランプリを受賞しながらも、国家財政の悪化によってイタリア留学を延期され、パリの旧カプシーヌ修道院に設けたアトリエで生計を立てる日々を送っていた。新興ブルジョワジーからの注文は、彼にとって自らの才能を世に問う絶好の機会であった。
父親のフィリベールを書斎風の暗い部屋で、母親をクッションに身を委ねる姿で描き上げたアングルは、最後に娘であるカロリーヌの肖像に取り掛かった。当時13歳から15歳前後であった彼女を前にしたとき、若き画家の心は大きく揺さぶられた。彼は自身の書簡の中で、彼女を「心奪われるほど魅力的な娘」と書き残している。
アングルは、彼女の姿を両親のような屋内の閉ざされた空間ではなく、屋外の開放的な風景の中に置くことを決断した。彼自身がパリ周辺を散策して描き溜めた自然観察のスケッチをもとに、サン=ジェルマン=アン=レイ近郊のセーヌ川流域の景観を再構成し、木々が芽吹く早春の明るい理想郷をカンヴァスの上に創り出したのである。
純白のアンピール・ドレスに身を包んだ彼女の滑らかな肌は、少女期の無垢さと処女性を象徴している。しかし、腰から背中にかけて蛇行するように大きく巻きつく白い毛皮のボアは、どこか不自然なうねりを持っている。美術史家のジョナサン・ジョーンズらが指摘するように、それは少女から大人の女性へと脱皮する過程にひそむ、目覚めつつある官能性の暗示だったのかもしれない。
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