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Venice: Campo S. Vidal and Santa Maria della Carità ('The Stonemason's Yard') 石工の仕事場

1725年

労働
Venice: Campo S. Vidal and Santa Maria della Carità ('The Stonemason's Yard')
寸法
123.8 × 162.9 cm
技法・素材
油彩・カンヴァス
所蔵
ロンドン・ナショナル・ギャラリー

✦ 見どころ(技法・色彩)

カナレットの初期作品に特有の、赤褐色の地塗りが用いられています。これにより、影や暗部に深みと温かみが生まれています。また、空の青色には、1704年に発見されたばかりの新しい人工顔料「プルシアンブルー」がいち早く使われました。崩れかけた漆喰や粗いレンガの質感は、絵具を厚く塗ることでリアルに再現されています。

✦ この絵の舞台

描かれたのは、大運河沿いの広場「カンポ・サン・ヴィダール」から、対岸のドルソドゥーロ地区を見下ろした景観です。当時は聖堂の改修工事のため、一時的に石工の作業場となっていました。対岸に見える高いレンガ造りの鐘楼は1744年に崩落し、現在は存在しません。また、1854年には大運河にアカデミア橋が架けられるなど、18世紀から現代にかけて劇的に姿を変えた場所でもあります。

✦ 時代背景

18世紀前半のヴェネツィア共和国は、かつての軍事・商業的な覇権を失い、政治的には衰退の途上にありました。その一方で、ヨーロッパ中の貴族や富裕層が教養を深めるために訪れる「グランドツアー」の目的地となり、都市全体が巨大な観光空間へと変貌していました。華やかな観光都市の裏側で、実生活を支えるインフラ維持の現実があった時代です。

✦ 鑑賞のための問い

画面の中で、一番最初にあなたの目を引いたのはどの人物ですか?

画面の手前には、巨大な白い石材がいくつも転がっています。

職人たちがハンマーとタガネを使い、石を割る音が響いてきそうです。

この絵は、ヴェネツィアにある恒久的な石工の仕事場を描いたもの。

あるいは、イギリスなどの富裕層が観光の記念に持ち帰る、
華やかなお土産絵画だと言われがちです。

カメラ・オブスキュラという光学機器を使い、
機械的に風景を写し取ったのだと語られることもあります。

でも実は、ここは石工の作業場ではありません。

そして、観光客のために描かれた絵でもないのです。

1725年頃。

カナレットは20代後半でした。

父親とともに従事していた劇場の背景画制作から独立し、
都市景観画の専門画家として歩み始めた時期です。

当時のヴェネツィアは、ヨーロッパ中の貴族が訪れる一大観光地でした。

画家たちはこぞって、サン・マルコ広場などの名所を描きました。

華やかで美しい、絵葉書のような風景。

それが飛ぶように売れたからです。

しかし、カナレットが選んだ場所は違いました。

大運河沿いにある、カンポ・サン・ヴィダールという広場。

そこは当時、すぐ後ろにあるサン・ヴィダール聖堂の改修工事のために、
一時的に建築資材置き場になっていました。

恒久的な仕事場ではありません。

実際、1730年頃に彼が描いた同じ場所の素描では、
石材も小屋もすべて撤去され、ただの空き地に戻っています。

彼が油彩で描いたのは、一時的な工事現場の情景でした。

彼が描いたのは、名所ではありません。

都市のインフラを維持するための、泥臭い労働の現場でした。

画面の左下を見てください。

白いブラウスと茶色のスカートを身につけた母親が、
泥の上に仰向けに転倒した幼子のもとへ慌てて駆け寄っています。

驚いた子供は、無意識にお漏らしをしてしまいました。

母親の後ろには、放り出された箒が立てかけられています。

崩れかけたピンクと白の漆喰の家。

窓辺には、朝を告げる赤い胸の雄鶏。

日陰で談笑する男女。

深紅色の建物のバルコニーで、糸を紡ぐ女性。

観光客が見向きもしない、裏街の日常。

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