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練習曲 第21番 変ト長調 作品25-9「蝶々」

Étude in G-flat majorOp. 25 No. 91836年作曲
練習曲 第21番 変ト長調 作品25-9「蝶々」
フレデリック・ショパン
フレデリック・ショパン

1810–1849 (ポーランド)

フリデリク・ショパンは、19世紀のロマン派音楽を代表するポーランド出身の作曲家であり、その生涯のほぼすべてをピアノ独奏曲に捧げた人物です。

この曲を一言で表すと

鍵盤を舞う軽快な跳躍の裏に、極めて高度な身体の制御と対位法を隠し持った、1分間の無窮動の物語。

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練習曲 第21番 変ト長調 作品25-9「蝶々」

曲解説・楽曲分析

どんな場面を描いた曲か ― なぜこのタイトルなのか

この1分にも満たない短い曲を聴くとき、あなたはそこにどんな情景を思い浮かべるでしょうか?

1836年に完成したこの曲は、ショパンが祖国ポーランドを離れ、パリの社交界でピアニストとして、また指導者として名声を確立していた成熟期に作られました。この曲を含む「練習曲 作品25」の曲集全体は、フランツ・リストの当時の同伴者であり、文筆家でもあったマリー・ダグー伯爵夫人に献呈されています。先行する「作品10」がリスト本人に捧げられたことを踏まえると、この献呈は当時のパリ芸術界におけるショパンとリストの極めて緊密な交流を象徴しています。しかし、後年になってショパン、ジョルジュ・サンド、リスト、そしてダグー伯爵夫人の4者の間に生じた愛憎関係の縺れは、この献呈の事実を巡って複雑な感情的亀裂を生じさせる一因にもなったと伝わります。

この曲は「蝶々」という愛称で広く親しまれています。右手が奏でる軽妙で短く切る音(スタッカート)を伴うオクターヴの跳躍が、まるで蝶の羽ばたきや不規則に空を舞う姿を思わせるからです。ショパンは飛ぶ蝶の美しさを具体的に描写するために本作を書いたと言われがちですが、実際は具体的な物語描写や絵画的な表現を完全に拒絶していました。純粋な音楽としての美しさを一貫して追求した彼にとって、この愛称は後世の聴衆や楽譜の編集者が、その音の響きから恣意的に付けたものに過ぎないのです。

19世紀には、この曲が「羊飼いの少年が吹くフルートの笛の音」を描いたものだという説まで囁かれたと伝わります。しかし、これも感傷的な物語を好む時代の産物であり、ショパン本人の言葉による裏付けは一切ありません。著名なピアニストであったアーサー・フリードハイムは、この愛称について「あまりに不十分である」と評し、曲に込められた真の音楽的な厳格さを見失う危険性を指摘しています。この曲が本当に描こうとしたのは、具体的な虫の姿ではなく、ピアノという楽器が持つ運動性と、そこから生まれる音の重なりの美しさだったのかもしれません。

物語 ― この曲で何が起きているのか

この曲は、ショパンが遺した全27曲の練習曲の中で最も短く、指定された速さで弾き切るとわずか1分未満で終わってしまいます。しかし、その短い時間の中に、緻密な音の組み立てと高度な技術が凝縮されています。

曲は大きく3つの場面と、締めくくりの部分から成り立っています。最初の場面では、明るく澄んだ変ト長調の響きに乗って、右手が休むことなく跳躍を繰り返します。それはまるで、光の中を駆け抜けるような無窮動(むきゅうどう:一定の音符が絶え間なく続くこと)の世界です。中間部に入ると、音楽は少しだけ影を帯びます。変ホ短調という調性に傾き、和音が不安定に揺らぎ始めるのです。ここで注目したいのは、右手の華やかな動きの裏側で、左手が低い声(テノール音域)で豊かな歌を歌い始めることです。その後、再び最初の明るい場面が戻ってくると、音の勢いはさらに増し、最後は力強い和音とともに一気に駆け下りて幕を閉じます。

この極端に短くも密度の濃い音楽は、出版直後から熱狂的に受け入れられました。1837年にフランスのシュレジニャー、ドイツのブライトコプフ・ウント・ヘルテル、イギリスのウェッセルという主要な出版社からほぼ同時に楽譜が出版されると、ヨーロッパ全土へと広まりました。ロベルト・シューマンはショパンの音楽を「花の中に隠された大砲」と評しましたが、この曲もまた、単なる指の訓練を超えた高い芸術性を持っていました。19世紀後半以降になると、イグナツィ・ヤン・パデレフスキをはじめとする歴史的名手たちが、リサイタルのアンコールピースとしてこの曲を好んで取り上げ、大衆的な人気を不動のものとしました。一方で、指揮者でありピアニストでもあったハンス・フォン・ビューローは、この曲の実用性を高く評価しつつも、過度にスピードを競う「ピアノ・アスレチックス(技術の誇示)」に陥りがちな当時のヴィルトゥオーゾたちの演奏姿勢に対しては、冷ややかな目を向けていたと伝わります。

後世の音楽家たちも、この曲の魅力に強く惹きつけられました。ロシアの作曲家アレクサンドル・グラズノフは、左手の豊かな歌に注目し、この曲をチェロとピアノのための作品へと生まれ変わらせています。チェロが朗々と主題を歌い、ピアノがその背後で軽妙な羽ばたきを演出する、極めてロマンティックな編曲です。さらに驚くべきは、レオポルド・ゴドフスキーというピアニストによる編曲です。彼はこの曲の右手の跳躍と左手の伴奏を、すべて左手1本だけで弾き切るという過酷なアレンジを作りました。それだけでなく、この曲と、同じ調性で書かれた別の練習曲(作品10の5「黒鍵」)を同時に並行して弾く「バディナージュ(戯れ)」という曲まで生み出しました。これは単なる悪戯ではなく、ショパンの音楽がどれほど複雑な声部を隠し持っているかを証明する出来事でした。

楽曲分析 ― 1分間に凝縮された跳躍と歌の交差

この曲の音楽的な仕掛けを解き明かすために、3つの観点から深く掘り下げてみましょう。

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この続き:約1,824文字

  • ・蝶の描写ではない本当の理由
  • ・入門曲と言われる曲の恐ろしさ
  • ・左手が密かに歌うもう一つの旋律
  • ・2つの曲を同時に弾く驚異の編曲

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