Une odalisque, dite La grande odalisque グランド・オダリスック
1814年

- 寸法
- 91.0 × 162.0 cm
- 技法・素材
- 油彩、カンヴァス
- 所蔵
- ルーヴル美術館(パリ、フランス)
現実の骨格に縛られた写実主義への静かな反逆。誰に酷評されようとも、自らが信じる究極の曲線美と官能の形をカンヴァスに刻みつけた、孤高の美学。
✦ 見どころ(技法・色彩)
カンヴァスに平滑な下地を施し、筆の跡を極限まで消し去る薄塗りの技法が用いられています。オダリスックの肌は磁器のように滑らかで、光が柔らかく拡散しています。寝台の布地に用いられた冷たい青色と、暖かみのある真珠色の肉体、金糸の刺繍が、鮮烈な色彩の対比を生み出しています。
✦ この絵の舞台
オスマン帝国の宮廷ハレムにおいて、王に仕える宮女の部屋を想定して描かれた空想上の空間です。ターバンや水たばこ、香炉などの小道具が異国情緒を演出していますが、画家自身は中東を訪れたことはありません。西欧で入手できた旅行記の挿絵や工芸品を組み合わせ、アトリエの中で創造された密室の情景です。
✦ 時代背景
制作された1814年から1815年は、ナポレオンの失脚や第一帝政の崩壊など、ヨーロッパ近代史上の激動期でした。当時のフランス美術界は新古典主義が全盛でしたが、一方で異国趣味や内省的な官能性を求めるロマン主義の萌芽も見られ、文学界でもオリエンタリズムのブームが巻き起こっていました。
青い布地と刺繍が施された豪奢な寝台。
背を向けて横たわる裸婦が、冷ややかな視線をこちらに向けています。
手には孔雀の羽根で造られた扇。
足元には水たばこや香炉が置かれています。
1819年、パリのサロン。
この絵が初めて公開されたとき、猛烈な非難を浴びました。
「腰椎が3本多すぎる」
「骨も筋肉も血も生命もない」
批評家たちは、アングルが人体解剖学を正しく理解できていないデッサン上の不手際を犯したのだと、冷酷に嘲笑したのです。
でも実は、近年の医学的調査で驚くべき事実が判明しました。
2004年に行われた科学的な分析。
それによると、腰椎は3本どころではありませんでした。
背中や骨盤全体が、約5本分も引き伸ばされていたのです。
さらに左腕は右腕より著しく短く、生身の人間には不可能な姿勢でした。
そしてそれは、決してデッサンのミスではありません。
アングルは、最高峰のデッサン技術を持つ画家でした。
彼は意図的に、人間の身体を歪めていたのです。
1814年、ローマ。
アングルはナポリ王妃キャロリーヌ・ミュラから、この絵の注文を受けました。
王妃の夫は以前、アングルが描いた『ナポリの横たわる女』を購入していました。
それは、仰向けに眠る裸婦像でした。
王妃はそれと対になる作品を求めたのです。
アングルは同じ寸法のカンヴァスを用意しました。
仰向けの姿と対比させるため、背を向けて振り返る姿勢を選びます。
しかし翌1815年。
ナポレオン帝政の崩壊とともに、ミュラ政権は倒れました。
王妃の夫は処刑された。
パトロンを失い、代金は未払いのままとなりました。
アングルは友人である画家デュプレの協力を得て、ナポリに納品されるはずだったこの絵を自らの手で回収することになります。
- この作品は 優美な調和主義者 の「あなたのための6作品」に入っています → 見る
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