Andante (around 1928) アンダンテ

- 寸法
- 29 x 40 cm / 57 x 80 cm
- 技法・素材
- 紙、グワッシュ
- 所蔵
- 個人蔵
✦ 見どころ(技法・色彩)
不透明な水彩絵の具(グワッシュ)を用い、ゆるやかに波打つ水平方向の色彩の層によって画面が構築されています。ブルーやグリーンから、オレンジ、イエロー、パープルへと規則的に色が移り変わり、隣り合う層が有機的につながっています。パープルの波の上に一定の間隔で配置された黒いドットが、絵画の中に視覚的なリズムを生み出しています。
✦ この絵の舞台
実在の地理的な場所ではなく、画家の内的な精神領域が舞台です。1920年代後半のウィーンが内包していた社会的高揚と、労働者階級の平穏や秩序といった社会主義的理想が、音楽の拍子を借りて視覚化されています。混乱する現実世界の外部に構築された、調和に満ちた社会的前進のモデル空間と言えます。
✦ 時代背景
1920年代後半のウィーンは、社会民主労働党の市政下で「赤いウィーン」と呼ばれ、労働者のための住宅建設や福祉政策が進められていました。一方で、右派と左派の武力衝突が激化するなど、社会全体が爆発寸前の過熱状態にもありました。ファシズムの足音が迫る中、新しい社会の構築を目指す熱気と不安が入り交じる時代でした。
ゆるやかに波打つ、色鮮やかな層。
上部には深海のようなブルーやグリーンが広がり、下に向かってオレンジ、イエロー、そして深いパープルへと規則的に色が移り変わっていきます。
パープルの波の上には、黒いドットが一定の間隔で並ぶ。
画面の左側には、グリーンとイエローが混ざり合った垂直の柱がそびえ立っています。
タイトルの「Andante(アンダンテ)」とは、「歩くような速さで」を意味する音楽用語です。
1920年代後半のヨーロッパの前衛美術では、音楽を絵画に翻訳する試みが流行していました。ヴィーナー自身も優れたピアニストであり、「音楽は私の絵画の最も直接的なインスピレーション源である」と語っていたほどです。
この絵も一見すると、音の重なりを色彩の層で表し、黒いドットで一定のビートを刻んだ、純粋な「音楽の視覚化」に見えます。
美しい抽象画。
ただその心地よいリズムに身を委ねたくなるかもしれません。
でも実は、この絵に刻まれたリズムは、単なる音楽のビートではありませんでした。
画家カール・ヴィーナーは、この規則正しいステップの中に、当時のオーストリアが目指していた「社会的な理想」を密かに描き込んでいたのです。
1901年に生まれたヴィーナーは、社会民主労働党の印刷所で働く父のもとに育ち、自身も若くして熱心な党員となりました。
彼がこの絵を描いた1928年頃、首都ウィーンは「赤いウィーン」と呼ばれ、労働者階級のための大規模な住宅建設や福祉政策が急速に進められていました。
それは、第一次世界大戦の敗戦と極度のインフレという混乱から立ち上がり、労働者たちが団結して、平等で秩序ある新しい社会を築こうとする熱気にあふれた時代。
ヴィーナーは、ウィーン工芸学校でデザインや構成を学びながら、この社会のエネルギーを抽象画という形で表現しようと試みます。
同じ時期に描かれた『Allegro(アレグロ)』という作品では、激しく渦巻く色彩で、武力衝突すら起きていた社会の過熱状態を描き出しました。
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